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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2011.12.01

クラウドと校務の情報化を考える「学びのイノベーション&セキュリティフェア」10月7日レポート

教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(以下ISEN)は、
2011年10月7(金)〜8(土)日に、クラウドと校務の情報化を考える
「学びのイノベーション&セキュリティフェア」を開催しました。

フェアでは、教育クラウドが「教育行政と学校、学校と
保護者との連携を強める」、「個別指導、一斉指導、協働教育を
バランスよく行える体制を作る」など、さまざまな導入メリットに
関する講演がありました。随時、講演の内容を追加予定です。

・「教育の情報化の推進と今後の課題 〜クラウド時代を見据えて〜」

・「ICTで豊かな学習環境の創造を 〜韓国、シンガポール、イギリス諸外国の先進事例から〜」

「事例と教員アンケートから見る学校における情報漏えいの事故の現状 〜安全性と利便性の両立のために何が必要か〜」

・「ICT環境整備とICT支援員の活用 『絆プロジェクト』採択自治体より」


■「教育の情報化の推進と今後の課題 〜クラウド時代を見据えて〜」
東京工業大学 名誉教授 清水康敬氏

shimizusensei4.jpg東日本大震災に直面し、教育分野も例外でなく、より信頼性のある情報基盤の構築が叫ばれています。

東京工業大学の清水氏は「東日本大震災では情報基盤の破壊、保存情報の消滅に直面した。被災した大半の学校では、指導要録や通知表といった子どもの文書が保管された耐火金庫が津波で丸ごと流された。ウェブページやグループウェアをインストールしたサーバを設置している学校では、これらにアクセスできなくなってしまった。早急に学校を運営する上で必要な情報の取り扱いやシステム環境を整えなければならない」と言及。

「震災後に、教育クラウドという言葉が取り上げられている。
言葉自体にまだ定義はないが、インターネットを介して、
電子教科書や教材、在籍情報など学校の各種文書にアクセスする仕組みで、
いつでも、どこからでも、どのような端末でも使えるのが一般的。
データを管理するデータセンターは、耐震整備や無停電電源装置による
電源対策など、万が一の事態への環境を整えているので、
サービス停止の可能性が自治体で管理するよりも
非常に少ないといえる」と清水氏。

また、学校での情報漏えい事故の状況をISENのデータをもとに説明。
清水氏は「全国の学校では毎年200件前後の情報セキュリティ事故が発生
している。事故の内容をみると、私物USBメモリの紛失などが目立つ。
教育クラウドに移行することで、自治体全体で情報の取り扱いを安全に
保つこともできる」と説明しました。

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▲学校の情報漏えい事故をISENの情報をもとに説明する清水氏

清水氏は、フューチャースクール推進事業の実証実験を
行なっている熊本県人吉市での校務支援システム活用を例に、
教育クラウドが与える学校や教員への効果を紹介。
「明らかな変化があったことは、不登校児童がゼロになったこと。
これは朝の児童の出欠席状況の確認が大きく
影響していると考えている。他には名簿管理を統一したことで
情報が一元管理されて作業負担が軽減された。
また、グループウェアを職員が利用する中で会議の時間が
短くなったり、校務処理の能率が上がったと教員から声があった」と清水氏。

「何を目的としてクラウドに移行するのか、
教育委員会や学校で明確にすることが重要。
たとえば、情報を守ること、校務を進めることも
一つの指標ではないか」と話し、
参加者へクラウドの意義を訴えかけました。


■「ICTで豊かな学習環境の創造を 〜韓国、シンガポール、イギリス諸外国の先進事例から〜」
富山大学 教授 山西潤一氏

DSCF0079.jpg教育の情報化の先進国を題材に講演された富山大学の山西氏。

「韓国、シンガポール、イギリスでは学校ICTを活用することで、個別指導、一斉指導、協働教育がバランスよく行われている。しかし、日本では、個別指導の重要性は認識されながらも、個別指導に時間を割けない実情がある」と問題提起された山西氏。この事実に対して、諸外国では、パソコンにインストールされたコンテンツを活用して、児童・生徒一人ひとりのレベルに応じた学習が行われているという実例を紹介されました。

韓国では、学校Webサイトを補助的に利用して家庭学習を進めたことで、
児童や保護者が学校Webサイトに毎日アクセスする割合が69%にも
達しているということ。日本と韓国の大きな情報化の違いは
ICT部門の配置で日本のICT支援員に相当する専門家を
配置している学校の割合が73%と高い割合だということ。
また、クラウドを通して、学校と家庭が繋がっているという事例を紹介。
個々の児童・生徒のデータベースがあり、クラウド上で
小中学校9年間の情報が一元管理され、家庭や進級時の情報共有が
円滑に行われ、教育の質向上につながっていると伝えられました。

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▲韓国の教育の情報化政策プラン

シンガポールのある学校では「教員による講義」→「生徒間のグループ学習」→
「各グループによる発表」という授業の流れが日常的な光景であり、
生徒はグループで議論し、インターネットでの情報収集、
情報をパワーポイントなどを使ってまとめる作業を10?15分という
短時間で実施しているということ。これにより、自ら考え
行動しようとする意識が芽生え、育ち、この学校の教育目標を
実現させているということでした。

イギリスでは、管理職が中心となり戦略的に情報化が
進められている点を紹介されました。管理職がICTを戦略的に
推進している学校の方が、生徒の成績が上位であることを言及。
一般教員のICT利活用への意識が高まるようです。
また、ボランティアによる外部支援員(ICT支援員など)が
授業サポートをすることで、地域として子どもを育てる体制が
イギリスにはあることを講演されました。

「教育の情報化は、ソフトやICT機器で何をするのかだけでなく、
活用以前に予算、法律、政策が重要です」と山西氏。
政府のビジョンを踏まえて中長期的に整備活用計画を練り、
情報化の推進を図るという役割の重要性が高まっていることにほかなりません。


■「事例と教員アンケートから見る学校における情報漏えいの事故の現状 〜安全性と利便性の両立のために何が必要か〜」
ISEN大溝副委員長

DSCF0087.jpg学校・教育機関の個人情報漏えい事故の現状と課題を明らかにすることが目的のISENによる調査結果をもとにした講演。
個人情報漏えい事故の集計、分析結果と合わせて、教員の情報セキュリティに対する知識や意識を探るため「セキュリティポリシーの内容を知っているか」、「自宅に情報を持ち帰って仕事をすることがあるか」、「情報の紛失、盗難などに遭った・遭いそうになったことはあるか」など、教員を取り囲む環境や意識にまで迫った調査結果まで解説しました。

平成22年度は、学校・教育機関で年間164件の個人情報漏えい事故が起きており、
合計75,700人分の個人情報が漏えいしました。
この個人情報漏えい事故のうち、子どもの成績情報を含む事故は48%。
「子どもたちの成績情報は非常にデリケートな情報です。
個人情報漏えい事故が発生した場合、子どもたち本人はもちろん、
保護者や関係者にまで多大な影響を与え、個人情報の不適切な取り扱いに対する
社会的責任が問われることになります」と大溝。

自宅や自家用車、電車など学校外で個人情報漏えい事故に遭うケースが
半数以上を占め、「学校での仕事を自宅へ持ち帰って行うなど、
やむをえず個人情報を校外へ持ち出した結果、帰宅途中などで
事故に遭ってしまうケースが多くなっていると考えられる」と解説。

これらの現状に対して、情報セキュリティに対する教員の意識調査
(インターネット調査、全国の学校教職員から無造作に600名を抽出)を実施。

教職員の意識としては、全教員の約15%がセキュリティのルールや
セキュリティポリシーに批判的であり、教員約33%が私物のICT機器の
持ち込みはよくないと考えているが、そのうち43%が実際には
持ち込んでいるというアンケート結果。個人情報を持ち帰る理由は、
約90%が学校内で業務が終わらないためという回答。

個人情報の持ち帰りの手段について、すべて許可されている方法で
持ち帰っている先生は約30%。約半数の先生方は許可されていない方法で、
情報を持ち帰っている。私物のUSBメモリの使用が目立っています。

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▲私物のICT機器の持ち込みについて

「これは校務とルールの間に乖離がある可能性が高い。持ち出し禁止が
現実的に無理であれば、禁止という規定を策定しても管理責任は逃れられない。
今一度、見直すべきではないか」と大溝。参加者からは
「学校の現状とセキュリティポリシーのギャップが目に見え、課題が把握できた」、
「『運用される』ルール作りの重要性がわかった」といった声があがりました。

■「ICT環境整備とICT支援員の活用 『絆プロジェクト』採択自治体より」
福島県新地町教育委員会 泉田氏、目白大学 教授 原克彦氏

shinchi1.jpg東日本大震災の被災自治体でもある福島県新地町。目白大学の原氏をアドバイザーに迎え、ICT機器や活用体制の整備をしていました。

震災発生は、ちょうど総務省「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」が進められている最中のことでした。「学校は緊急時に避難所となる。そのため学校には、情報拠点としての役割があることを忘れてはならない」と新地町教育委員会の泉田氏。

更なる教育の情報化推進を目標として、タブレットパソコンや電子黒板、教育アプリケーション、そして各種コンテンツが絆プロジェクトで整備された新地町。震災の影響を受けながらも、導入したICT機器を学校で有効的に利用している様子を講演されました。

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▲ICT機器を活用した授業。ICT支援員によるサポートも。

「活用の背景には、ICT支援員の役割が大きかった」と泉田氏。社会科の授業で子どもがタブレットパソコンを利用しようとし、ICT支援員がサポートしている風景、ICT支援員が配線を整備している風景などの写真と合わせて活用状況を説明されました。また「見逃されがちだが被災時には電子黒板や情報端末は情報提供だけでなく、娯楽としても活用できる」と講演されました。

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