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研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

学校ICT 専門家・研究者のコラム

2017.11.10

学校でのスマート機器とSNSの利用は危ないか。

 私は2011年12月に海外の先進的なICT活用教育を調査するために,韓国から
福岡県の高校を訪問し授業を参観したことがある。動画とゲーム型の
コンテンツで教科授業への動機を高める,あるいはドリル型コンテンツで
知識の定着を図るなどの取り組みを見て,なるほどと思った。最近その高校で
授業中にスマート機器の使用をめぐり,生徒が教員を蹴るトラブルが発生した。
その様子がクラスメートによって撮影され,SNS上などに広まった。
これについて学校側は学校ホームページにお詫び文を公開したが,その中に
SNS利用の危険性への言及があり,今後ITモラル教育などの指導をより強める
内容が含まれている。私は教師を蹴った生徒に責任はあるが,その生徒の
行動と学校側の反応の背景を吟味する必要があると思う。
なぜなら(1)今後学習者一人1台の教室環境になるとこのような
トラブルが増える可能性があるし(2)そもそもそのトラブルの原因は
SNSでもITモラルでもない。また(3)日本はICT活用への抵抗感が高く
(OECDの2009年PISA調査結果によると日本は調査対象の29か国の中で26位),
このようなトラブルによって学校教育情報化が保守的に片寄り停滞してしまう
可能性があると考えられるからである。

 私は2014年に韓国で一人1台の環境にある53校の小・中学校(小32,中21)の
児童・生徒986人(小473,中513)を対象に,学校と家庭でのスマート機器の
利用実態を調査したことがある。その結果,授業中に学習以外の目的でゲームや
動画を見るなどの行為を週16回以上行ったと答えた児童・生徒は6%以上
であった。1回も行わなかったと答えた児童・生徒は50%程度であった。
そして私は2015年にはある韓国の高校での1カ月間滞在し,スマートフォンの
利用実態を観察調査したことがあるが,授業中にスマートフォンを
使ったことがばれて,学則により1週間以上没収されるケースが数回発生した。
それをめぐって没収された生徒が教師にスマートフォンを返すことを粘り強く
願ったり,机を蹴ったりするなどの反抗を見せるなどの場面を実際複数回
観察あるいは聞き取りできた。
これらを踏まえて,報告書には(1)高校生にとってスマートフォンは
特に高校の中で「精神的な支持具」のような存在であり,ストレスなどを
和らげてくれる手段でもある。(2)そのため,スマートフォンをめぐる
生徒と教師のトラブルを解決する方法は,没収と持ち込み禁止よりも生徒が
学校での学習に能動的に取り組めるような環境と雰囲気,そして教師の
授業の改善が必要であると論じた。

 同じように,福岡県の高校生にとってスマート機器は「精神的な支持具」
のような存在になりえた可能性もある。これから日本でより多くの学校が
一人1台の情報環境になると,福岡県の高校のように,そして韓国の一人1台の
小・中学校のように,多くの児童・生徒は授業中に週1-2回以上その授業と
直接関係のないニュースを見たり,SNSでやり取りをしたり,一部はゲームなどを
したりする可能性もある。このような欲求とよそ見などの可能性を
踏まえた上で,より児童・生徒が授業に自ら積極的に参与し学べるための
ICT活用学校教育の検討が求められる。

 日本の文部科学省の改訂学習指導要領などの政策文書を見ると,
ICT活用によって「主体的・対話的で深い学び」すなわち
アクティブ・ラーニングが促されるといわれているが,まずSNSと
スマート機器そして(Google ドキュメントなどの)汎用性が高く無料の
ソフトウェアを学校の中で児童・生徒が主体的で対話的に利用できる
雰囲気と体制を整えることが欠かせないと主張したい。その意味で,
福岡県の高校のことは今の日本の学校教育情報化の現状と課題を
もの語っているように見受けられる。

Mr. Cho, Kyubok

韓国教育学術情報院政策研究部の研究員。広島大学大学院教育学研究科修了。
ICT機器とデジタルコンテンツを活用した教授学習のプロセスと実態を研究しており、最近はスマートメディア活用授業の実態、SNSのオンラインコミュニケーションによるコミュニティ形成の特徴、韓国と日本のICT活用授業実践記録の分析に関する研究を進めている。

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