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研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

ISEN委員長 山西先生のコラム

2019.01.11

平成から次の時代の教育へ-Society5.0への序章-

平成最後の年が明け、いよいよ新しい時代が始まる。
思えば平成時代の30年間は情報通信技術の飛躍的進歩とともに、
社会基盤、学校の情報環境も急速に変化した時代であった。

平成になる何年か前、確か昭和60年と記憶するが、
当時の臨時教育審議会で、情報化時代を見据え、全ての人々が
情報手段を適切に使いこなす能力を身に付けることの必要性が議論され、
学校教育での情報教育がスタートしたのだ。

教科として具体化されたのは平成元年の学習指導要領改訂で、
中学校の技術家庭科に新たな選択学習領域として「情報基礎」が設置され、
情報活用能力の基礎教育が始められた。
同時に小学校では「コンピュータ等に慣れ親しませること」、
中学校では技術家庭科で習得した情報活用能力を、数学や理科、社会などの
教科の中で活用し、学習を深める手段としての活用能力の育成が求められた。
高等学校でも同様に、普通教育の中で数学や理科などに
コンピュータに関する内容が取り入れられた。

しかしながら、この時代は中学校の技術科の教員や限られた教員が
それらを任されていたため、全ての教員が指導はもとより
自らの活用も心もとない時代であった。
その後、平成9年には、情報化の進展に対応した初等中等教育における
情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議の報告書で、情報活用能力が
「情報活用の実践力」「情報の科学的理解」「情報社会に参画する態度」
として焦点化され情報教育の目標が明確になった。

平成13年2001年には、e-Japan戦略のもと2005年に
世界最先端のIT国家を目指すべく、さまざまな分野でのIT革新が進められ、
それに伴い学校教育の情報化も進んだ。この動向は先進諸外国も同様で、
教育の情報化が世界的規模で進行した時代だ。
日本はITの技術では世界トップクラスであったが、
教育の情報化のインフラ整備や教科での活用、情報教育の教科化と
体系的指導という面では、イギリスやオーストラリア、シンガポール、
韓国などに比べ遅れを取ってしまった。
教育の情報化に係る予算が、地方財政措置予算として位置づけられたため、
地域による格差が広がり、全国的には必ずしも十分な整備が進まなかったのである。

こんな現状の中で、新たな時代に向けた教育のスタートである。
2020年からは新学習指導要領に基づく教育が始まるのだ。
それは取りも直さず、2030年以降の未来社会、
いわゆるSociety5.0時代を生きる子どもたちのための教育だ。

Society5.0時代のキーワードはIoTとAIだという。
IoTで全ての人と物がつながり、新たな価値が生まれる社会。
イノベーションにより、さまざまなニーズに対応できる社会だという。
しかし、新たな価値を生み出し、
さまざまなニーズに対応する社会を実現する主体は誰か。
創造と革新をもたらすのは紛れもない、そこに生きる人だ。
そのような能力を育てる教育が、
次期学習指導要領の中に強く意識されているのだ。
生きて働く知識・技能の習得、
未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成、
学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養、
これらは全て次の時代に必要な資質・能力である。
IoTやAIの前提は、いつでもどこでもだれでもが
インターネットを活用できるユビキタス環境だ。
先に述べたとおり、我が国の社会情報環境、特に学校の情報基盤整備や
学習の道具としてのタブレット普及はまだまだ十分とは言えない。
地域格差も広がっている。新しい教育をするためには、
それなりの環境が必要である。

IoTやAI時代の問題解決能力を育成するプログラミング教育の内容も問題だ。
小学校では単に体験すればいいという安易な考えでは、
情報科学の基礎と位置づけている先進諸外国に遅れを取ることは目に見えている。
小学校から高等学校までの体系的な学習カリキュラムと
そのような考えを理解し、当該の教科で発達段階に応じて
指導できる教員の育成など課題も多い。

ISENでは、今年も学校の情報環境の整備充実の必要性、情報セキュリティ問題、
新しい時代に向けた教育の内容や方法をどのように実現していくか、
学校、教育委員会、大学・企業等の関係者の知恵を結集し、
皆さんとともに、その普及啓発に努めていきたい。
本年もよろしくお願いいたします。

山西先生

富山大学 名誉教授、上越教育大学監事
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長
日本教育工学協会(JAET)評議員
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長
インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた
教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。
専門は、教育工学、情報教育。

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