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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2019.05.24

カリキュラム・オーバーロードと学びの個別化

複雑性を増す国際社会では、より多様な知識やスキルを必要とすることから、
カリキュラムも次第に過密になる傾向があります。
これをカリキュラム・オーバーロード(負担過重)と言い、
日本に限らず各国に共通して見られる課題となっています。

内容の増分に合わせて単純に授業時数を増やそうとすれば、
時間割のコマを増やしたり、15分モジュールで隙間時間を埋めたり、
行事や特別活動の時間を削ったりといった操作が必要ですが、
やみくもに授業時間や学校滞在時間を増やしてしまうのでは、
子どもの生活の質(QoL : Quality of Life)にも影響します。

年々過重になるカリキュラム負担を合理的に解消するために、
注目されているのが「学習の時間から学習の質」へのシフトです。
つまり、学習の質を高めることで、
時間をより有効に使えるよう工夫しようというものです。

もともと、単元に設定される標準時数は、
配当学年の(多くは一斉)授業を基本として設けられ、
明示された時数を費やすことで必要な学習がなされた(情報伝達された)と
みなすものですが、これは19世紀以来の古い学校制度を
そのまま引き継いだものに過ぎません。

40人の学級集団を1人の教員が相手すれば、たいがいは、
教員が設定した授業進度からの「落ちこぼれ」と「吹きこぼれ」が生じます。
学習者の生活経験や事前知識、あるいは、学び方の特性はバラバラなのに、
授業の形が個人の勝手を許さないので、
ある子どもにとっては、まったく意味が分からず座っているだけになり、
ある子どもにとっては、分かりきっていて退屈極まりない
「低い学習品質」の時間を無駄に過ごすことになります。

近代以前の王侯貴族の子弟教育が家庭教師との1対1で行われたように、
学習者の特性に合わせた「学びの個別化」はひとつの理想型です。
学校教育では、限られた教員の人的リソースを補うために、
大型ホストコンピュータを用いたCAI(Computer Assisted Instruction)が
1960年代に開発されました。
学習者の回答パターンをコンピュータが即時に判断して、
次の問題を出題するタイプの仕掛けが「学びの個別化」実現の切り札として、
たびたび紹介されるようになったのです。

最近では、AIを用いた個別最適化が注目されています。
例えば、タブレット教材のQubena (COMPASS社)は、
中学1年1学期(14週)の数学カリキュラムを
わずか2週間(7分の1)で完了すると説明しています。
学習内容は小学1年から中学3年まで網羅されているので、
学年をさかのぼって、じっくり学び直しができるメリットもあります。

コンピュータによる「学びの個別化」は、
あらかじめ習得ゴールが決まっているような課題に対して威力を発揮します。
個別の学びの品質を高め、時間を効果的に使えば、
より探究や対話や創造が求められる活動に、
より多くの時間を割くこともできるでしょう。
その意味で、従前の情報伝達型の授業形態が「学びの個別化」に
取って代わられるのは時間の問題かもしれません。

豊福先生

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主幹研究員・准教授。
公益財団法人 学習情報研究センター 研究員。
専門は学校教育心理学・教育工学・学校経営。
一貫して教育の情報化をテーマとして取り組み、
近年は、北欧諸国をモデルとした学習情報環境(1:1/BYOD)の構築に関わる。

主なプロジェクト
全日本小学校ホームページ大賞(J-KIDS大賞)企画運営(2003~2013)、
文部科学省・緊急スクールカウンセラー等派遣事業・東日本大震災被災地のための
学校広報支援(2011~)など。

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