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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2019.09.27

「プログラミング教育」への期待

改定学習指導要領の開始を来年にひかえ、
“プログラミング”の関心が高まっている。
小学校ではプログラミング教育が必修化され、
中学校の技術・家庭科では「ネットワークを利用した
双方向性のあるコンテンツのプログラミング」が登場し、
高校の情報科では「全ての生徒がプログラミングのほか、
ネットワーク(情報セキュリティを含む)やデータベースの基礎等について学習」する。

プログラミングは「手段」であって、
初等中等段階における教育の目的になりえるのか、という議論がある。
コードを書いてメシを食う人にとってプログラミングは
「道具」としてガッチリ身に付けなくてはならぬものだが、
社会に出て使うかどうかわからない道具を
小学生全員に課す意味はどこにあるのだろう?

「コンピュータを“ブラックボックス”として見ない」という
「マインド」を小学校時代から身に付けることはとても良いことだ。
街中でスマートフォンがますます便利になり、大人顔負けに
使いこなす若者を目にするとき、便利さの根拠となる仕組みを
ちゃんと理解している大人になってもらいたいと思う。
その意味で、小さい頃からプログラミングに慣れ親しむ環境が作られることは歓迎したい。

ただ、心配なこともある。小学校から高校までの12年間を通して、
「プログラミング」に関する系統的な方針が見当たらない。
ややもすれば、小中高校の各段階での「プログラミング」が
“読み切り”で終わってしまう可能性がある。
算数は好きだったが数学になったとたんに嫌いになった、
という傾向に似たことになることは避けたい。何より、
現場の先生方が自信を持って指導できる状況にあるのか、
ということが気になる。

英国では2014年の秋から「computing」という名の教科がスタートした。
5歳から16歳の12年間を通して学ぶ必修教科で、それまでの
「ICT」というコンピュータ操作に特化した教科をやめて、
コンピュータサイエンス、情報技術、デジタルリテラシーを系統的に学ぶことになった。
もちろんプログラミングも含まれている。
2017年にこの教科の振り返りが行われ、
課題の一つとして「教員の能力」が指摘された
https://royalsociety.org/topics-policy/projects/computing-education)。
その中で「We need confident, trained and supported teachers
if all students are to have the opportunity to study computing. 」
(すべての生徒がcomputingを学ぶ機会を得るには、
自信を持ち、訓練され、サポートされた教師が必要)と指摘されている。
系統的なカリキュラムを準備して始まった「computing」が
指導者という点で課題を含んでいたのである。
わが国の「プログラミング教育」は決して平たんな道のりではないと思うが、
このような先駆的事例を踏まえつつ、日本の子供たちの可能性に期待したい。

小泉先生

尚美学園大学芸術情報学部教授。 立教大学大学院理学研究科修了。
都立高校教諭、都総合技術教育センター専門教育主事等を経て、 2005年4月より現職。文部科学省主催による教育の情報化に 関する調査研究および各種検討会に参加し、
高等学校共通教科「情報」の学習指導要領改訂にも参画。
2008年5月より文部科学省参与。
その他、経済産業省主催「U-20(アンダー20)プログラミング・コンテスト」審査委員長なども 務める。
著書に『図解チャート よくわかる実習[情報]』 『これで完璧!圧縮・解凍』(いずれも技術評論社)など多数。

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