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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2019.12.13

メディアリテラシーと人権(3)エンターテインメントと多様な人の人権

私は、NHK高校講座「社会と情報」の番組委員を務めている。
今年度制作された中で、「誰もが表現者発信者」は、私が担当した回である。

この回では、VTuberの話題が取り上げられている。
VTuberというのは、「バーチャル・ユーチューバー」の略で、
パソコンやスマートフォンのアプリを使って人が話すと、
あらかじめ決められたアニメのキャラクターが
話している人と同様の表情で話すものである。
動画配信サービスで継続的に発信している人たちがいて、人気を博している。

VTuberには、見た目を変えてリアルタイムで発信できる面白さがある。
発信したいことのある人が、アニメのようなキャラクターとして話をする。
あるキャラクターは妙にクセがあって早口で、
別のキャラクターはなんだかのんびりした感じで、
また別のキャラクターは見た目は少女なのに声はおじさんのダミ声で、
というように、見た目と声・話し方との組み合わせで、
多様なキャラクターが生み出される。

テレビでは難しいだろうが、インターネットでは
このような多様なキャラクターが発信を続けることが可能である。
爆発的な人気を得る人は少なくても、魅力を感じて見てくれる人はいる。
テレビは一対多、インターネットは多対多、
さらには少対少のコミュニケーションに強い。
マニアックなVTuberの魅力は、インターネットでこそ生かされる。

メディアリテラシーという考え方は、
テレビが圧倒的に強い状況の中で発展したものだ。
だから、インターネット時代に求められるメディアリテラシーが
どのようなものなのかについては、いまだはっきりしない。
その中でも一点述べるならば、
インターネット時代のメディアリテラシーは、
平均的な多数の人々への発信ではなく、
かなり偏った少数の人に届く発信を扱う必要があるはずだということがある。

このように考えると、インターネットでの発信においては、
エンターテインメント的なセンスが必要であり、
オタクと呼ばれるような何らかのことについて
マニアックな人たちに届くものであることが
求められることが理解されるであろう。

漫画、ゲーム、アニメ、ボーカロイド、
VTuberというように、インターネット社会において、
さまざまなジャンルのオタクたちがつながってきた。
物理空間に縛られた現実の学校や地域社会とは違い、
インターネットでは地理的な制約を超えて、
何かを好きな偏りの強い人同士がコミュニケーションをとることができる。
そして、そうした偏りのある人たち同士のコミュニケーションにおいて、
関係を構築し、共感を交流し、居場所を作るコミュニケーションがなされていく。

こうしたマニアックなコミュニケーションは、
非学校的に見えるであろう。だが、今やメディアを使えば、
マニアックなコミュニケーションに出会うことは必然である。
メディアリテラシーを高めることは、
マニアックなコミュニケーションをもできるようになる
ということだと言ったら、言い過ぎであろうか。

これからの教育で、
個別に最適化された学びが求められるのだとしたら、
ここで論じてきたようなマニアックな
コミュニケーションのスキルが担う役割は大きいだろう。
そうしたコミュニケーションが当たり前になるとき、
少数者だからとして人権を侵害されない状況も実現できるのかもしれない。

藤川先生

千葉大学教育学部教授(教育方法学・授業実践開発)。
メディアリテラシー、キャリア教育、算数・数学などの
授業プログラムや教材の開発、いじめ問題等を研究。

著書
・『道徳教育は「いじめ」をなくせるのか』(NHK出版)
・『授業づくりエンタテインメント!』(学事出版)など

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