ISENのつぶやき

TOP > 学校ICT・セキュリティコラム > 長期休校で学校の情報化スキルが問われる ~児童・生徒の学びを止めないために~

研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

ISEN委員長 山西先生のコラム

2020.05.22

長期休校で学校の情報化スキルが問われる ~児童・生徒の学びを止めないために~

新型コロナウイルスの感染症対策で政府の緊急事態宣言が発出された。
自粛要請とともに学校も休校措置が取られ、はや2カ月が過ぎようとしている。
ようやく宣言解除が見えてきて、学校も再開され始めた。
この間、筆者は日本の教育の情報化が、
ビジョンや計画ばかりが声高に叫ばれても、
現実がいかに貧弱なものであったか思い知らされた感が強い。
もはや記憶も薄れてきたが、確か2000年、
IT基本法のもと世界最先端のIT立国を目指し、
高度情報通信ネットワークを整備し、
国民全てがその恩恵を享受できるようにするというものであった。

勿論、教育においてもすべての学校がインターネットに接続し、
その活用で学習や教育の質的改善を図っていこうとするものであった。
当然、ネットワークの整備が進み、
学校でのコンピューターやインターネットの利活用が進む中、
教員はもとより、児童・生徒やその保護者も活用リテラシーを高め、
いつでもどこでも学べるはずであった。
このユビキタスな学習環境作りは、
科学技術立国や世界最先端のIT立国を目指した日本はもとより、
世界の先進諸外国では当然のごとく進められた。
 
さて、新型コロナ問題で学校が休校になり、
自宅待機になった児童・生徒の学び支援がどこまでできたのだろうか。
この間、文部科学省から発表された休校中の家庭学習の状況調査によれば、
同時双方向型のオンライン指導を行っている自治体はわずか5%とのこと。
これでは、20年前のユビキタスな学習環境が夢だったのかと嘆かざるをえない。

OECDによる生徒の学習到達度調査2018によれば、
学校外での平日のデジタル機器の利用状況で、
ほぼ毎日コンピューターを使って宿題をする生徒は
OECD平均22.2%に対して日本は3.0%、
「学校の勉強のためにインターネット上のサイトを見る」では、
OECD平均23.0%に対して日本は6.0%、
「ウエブサイトを見て学校からのお知らせを確認する」では、
OECD平均21.3%に対して日本は3.4%、
どれもあまりの低さに驚くばかりだ。
これらはOECD約40カ国の平均であって、教育の情報化先進国にあっては、
100%近い数字の国も少なからずある。格差が開くばかりだ。

確か2000年代のはじめに韓国に調査に行ったときには、
受験競争の激しい韓国では家庭教師をつけたり、
塾に通わせたりする家庭がある一方、
経済的に厳しくそこまでできない家庭も多い中で、
家庭の経済格差が教育格差にならないようにと、
政策として全ての家庭にネットワークを整備し、
無料で利用できるデジタル学習教材の開発に力を入れているという話であった。
また、シンガポールでは、学校と家庭での学びをシームレスにつなげるように、
インターネットで学習の振り返りや宿題を提出する姿があった。
英国、オーストラリア、エストニア、フィンランドなど、
多くの教育の情報化先進国では、インターネットの教育利用は学校のみならず
家庭と学校をつないだシームレスな学習として日常的に活用されているのだ。
新型コロナ問題で休校になっても、日頃からのインターネット活用で教員も
児童・生徒もリテラシーがあるので無理なくオンライン学習主体に切り替えられた。

我が国の現状はどうだろう。
地域によっては、意のある先生方が授業を動画で撮って、
ケーブルTVやインターネットで配信するなどの工夫がされた。
プリントなど紙の教材を配った所も多い。
しかしながら、これらはあくまで一方向の情報伝達。
従来の授業で最も理解度が深まるのは双方向のインタラクティブな学習だ。
先にも述べたように、同時双方向型のオンライン指導はわずか5%。
子どもたちにとって、先生や友達とのインタラクティブなコミュニケーションは
学習や心の安定に最も重要なのだ。
インターネット上でのコミュニケーション手段は
20年前とは比較にならないくらい進歩している。
Zoom、Teams、Meet、Skypeなど誰でも容易に使えるTV会議システムや
教育活動を支援する機能を持ったツールも多数提供されている。
要は、これらのシステムをどのように活用して、
日常の学校の機能を維持し、子どもたちの学びを止めないかだ。
学校の情報化スキルが問われる。
日本でも、最も先進的に日常的にインターネット利用をしている
つくば市のみどりの学園義務教育学校(毛利校長)では、
いち早くオンライン学習を充実し、今では毎日16,000を超えるアクセスがあるという。
また、ホームページを活用して学校と家庭をつなぎ、
先生と児童・生徒がつながることで子どもたちの心の安定を図る
コミュニケーションツール「せんせい あのね」がすばらしい。
他にも頑張っている地域や学校はあるが、まだまだ少ない。
それこそ数%。教育格差が開くばかりだ。

新型コロナ問題が収束して、学校が一刻も早く日常を取り戻せることを期待するが、
その後の教育方法の改善こそが課題だ。一人1台のPCの整備も進むという。
この期に教育の情報化を真に実現し、どのような状況にあっても、
子どもたちが充実した学びができることを期待したい。

山西先生

富山大学 名誉教授、上越教育大学監事
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長
日本教育工学協会(JAET)評議員
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長
インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた
教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。
専門は、教育工学、情報教育。

一覧へ戻る


PAGE TOP