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研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

ISEN委員長 山西先生のコラム

2023.01.13

GIGAで新たな学びのステージを広げよう

新年、明けましておめでとうございます。
GIGAスクール構想も3年目を迎え、学習道具としての一人1台端末の活用も
定着してきているかに思われます。
しかしながら、令和4年度の全国学力・学習状況調査結果から見れば、
自分で調べる場面でICT機器を活用している学校の割合は、
毎日活用しているのは2割程度、週3回以上を合わせてようやく6割程度だといいます。
学習道具としての日常的な活用はまだまだのようです。
先生方には、ICT利活用にあたって、いかに効果的に活用するか、
どのような成果が得られたのかという外圧からの問いが
重くのしかかっているような気がしてなりません。
どの教室にも黒板があるのに、その効果的な活用や効果を問題にすることはありません。
最初に導入されたときには、そんな議論があったのかもしれませんが、
一人1台端末は、自分で調べ、まとめ、伝える道具です。
R.N.PuenteduraのSAMRモデルにあるように、最初はノート代わりに使えばいい。
分からないことは百科事典代わりにネットを活用すればいいのです。
まずは慣れることから始め、使っていくうちに、クラウドを活用した協働作業など、
うまい使い方が増えていく。そんな日常使いで、情報活用能力のスキルも高まるのです。

さて、OECDの2030年の教育の在り方を展望する
「Education 2030 プロジェクト」では、
予測困難で不確実、複雑で曖昧な未来社会を生きる力として、
「自ら目標を設定し、振り返り、責任を持って行動する」変革へのコンピテンシーを
持ったエージェンシーを育てる教育の必要性が謳われています。
自らの学びの航海を自らの手で舵取りしていく力です。
従来の知識をインプットする一斉授業型から、個々の児童・生徒が学んだ成果を
社会に生かす課題に取り組むアウトカム型へ、履修主義から修得主義への転換です。
個別最適化のキーワードのもと、個々の児童・生徒は課題に向かって、
それぞれが持った興味関心の視点から解決に取り組みます。
互いの解決プロセスがクラウドで可視化され、関連する仲間での協働も進みます。
グローバルコンピテンスや協働問題解決能力がますます求められる社会にあって、
教育の方法も変わらざるを得ない時代になってきているのです。

先頃のサッカーワールドカップは、日本はもとより世界中を熱狂させました。
寝不足が続いた中で見ていたテレビ中継で、優勝したアルゼンチン代表の
メッシがボールを蹴る姿や、左右に走るアルゼンチンのFWやMFの姿を、
テレビは上から俯瞰して全体を写すので動きが実によく分かります。
でも、試合をやってる選手はどうしてそれがわかるのかなと思ったものです。
ここで、スペインでコーチをされた佐伯夕利子氏の「教えないスキル」という
興味深い本がありました。子供たちの指導で重要なことは、
「指導者はファシリテーターであれ。主体は子供たちだ」といいます。
変化に対応し、流れるようなパスワークやスペースを作るための動きは、
時間、空間、スピード、状況など不確定な要素を瞬時に認知し行動に移す
認知能力だそうです。その能力を伸ばすには、自らの経験や知識を伝達するのではなく、
常に、子供自身に自らの行動を振り返り、考えさせることだと言われています。
答えが決まった問いではなく、なぜ、どうしてといったオープンクエスチョンを
なるべく心がけるのだそうです。まさに、次代に求められる自律的な学びを
育てる教師の問いに通じる内容です。

GIGAスクール構想は、単なるICT利活用教育の推進ではありません。
次代が求める「自律的に学ぶ力」「変革へのコンピテンシー」を持って、
自らの学びの海を逞しく航海していける子供たちを育てる教育への
パラダイムシフトです。
志ある皆さんと共に、この新たな学びのステージを広げていきたく思います。
どうぞ本年もよろしくお願いいたします。

山西先生

富山大学 名誉教授、上越教育大学監事
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長
日本教育工学協会(JAET)評議員
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長
インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた
教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。
専門は、教育工学、情報教育。

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