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研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

ISEN委員長 山西先生のコラム

2015.04.14

ICTの教育利用を支える教育カリキュラム

 フューチャースクール推進事業も終了し、先進的なICT利活用も第2段階を
迎えた。その成果がどのように生かされたか、あるいは生かされるのかは
筆者にはよく見えない。

新しい学習指導要領ではICTの利活用のみならず情報モラル教育の充実が
掲げられている。一人1台タブレット端末、無線LAN環境、教室の電子黒板と
環境整備を図れば、もともと優れた教育技術を持つ日本の教師が
教科指導の成果を上げるのは当然の帰結であろう。

問題は、このような21世紀にふさわしい学習環境の構築とともに、それを生かす
教育カリキュラムをK-12の教育課程の中でどのように位置付けるかだ。

 今回は、モデルとなったシンガポールを例にこの問題を考えてみたい。
新学習指導要領では「コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や
情報モラルを身に付け、適切に活用できるようにするための学習活動を充実する」
とある。しかし、これが教科として位置付けられていない現状では、
特定の教科の中で実施するか、総合的な学習の時間での実施になろう。
シンガポールでも実態は似ているが、応用学習の時間として位置付けられている
この学習が実に体系的に組み立てられている。

 典型的な例として、フューチャスクールの一つであるNan Chao小学校での
取り組みを紹介しよう。同校では、小学校の6年間を2年間ずつ「慣れる、
体験する、活用する」と3段階に区分。1年次から基本操作はもちろんのこと、
パスワード管理やネチケットの基本を学習する。
重要なことは、これらの学習が単に学習のための学習ではないということだ。

シンガポールでは、小学校の1年次から教育用LMSにアクセスし、学校で学習した
内容に関する課題を自宅でも継続して学習せざるを得ない環境になっている。
教師は毎回の学習内容に関する宿題をネットにアップしたり、次の日には、
その宿題をもとに授業を展開したりもする。また、保護者も学校での活動の
様子や子供の学習到達度をいつでもこのLMSを介してチェックできるのだ。

教育カリキュラムそのものが学校と家庭の連携を前提に組み立てられている。
総学校数が400足らずのシンガポールだから、先進的な教育システムが実現
できるという意見もあろうが、情報化先進国を標榜する我が国でも、
少なくとも県単位や地方教育委員会レベルでこのようなきめ細かいLMSの構築と
それに連動した教育カリキュラムの構築を目指すべきであろう。

 話を元に戻そう。6年間を低、中、高と3段階に区分した応用学習の時間は、
それぞれさらに細かく、コンピュータの操作技術(ICT)、セキュリティ、
ネチケット、著作権などの情報教育(Cyber Wellness)、
自らのチャレンジ(I-Can)、協働的プロジェクト作業(Project Work)と
4ブロックに区分されている。このブロックが、発達段階に応じてうまく
組み合わされている。6年間を通してコンピューターやインターネットの
基本的な操作技術から応用、情報社会を健全に生きる知識や技術、
協働・協調作業能力の育成が図られているのだ。

各ブロックの中身をもう少し紹介しよう。低学年のICTでは、LMS、iPod、
Word、PowerPoint、検索の基本的な使い方と活用。CWではネチケット、
プライバシー、著作権、ネットいじめ。I-Canではノートの取り方、
マインドマップ、ブレインストーミング、グループワークの方法についての
学習が組まれている。

中学年のICTでは、クラウド、携帯情報端末の使い方、Webサイトの作り方、
MovieMaker、Excelの利用技術、LMSを使った議論など。
CWでは、ネットいじめと著作権、I-Canでは、LMSを活かした振り返り、

高学年のICTでは、PowerPointやExcelの活用のみならず、eポートフォリオや
Wikiなどさらなる学習への活用が学ばれている。CWに関してもセキュリティ、
ゲームなどネットに関わる問題の学習が展開されている。

 とにかく、単に学習として知識や技術を学ぶのではなく、そこで学んだ知識や
技術がすぐに生かされる仕組みができていることだ。情報社会の急速な進歩の
中に教育・学習システムそのものが必然的に組み込まれている。我が国の教育の
情報化もいずれそのような状況になるであろう。情報環境の整備とともに、
そのような教育システムの構築を視野に入れた取り組みが求められる。

山西先生

富山大学 名誉教授、上越教育大学監事
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長
日本教育工学協会(JAET)評議員
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長
インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた
教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。
専門は、教育工学、情報教育。

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