2010.07.09
安全な校務の情報化を進めよう
文部科学省の委託研究で、校務の情報化について、2009年に研究を行った。受託は、日本教育工学振興会(JAPET)で、森本事務局長が運営の責任を持ち、私が座長を務めた。この研究で、いくつか感じたことがある。
1つは、メンバーの意気込みである。事務局の運営も優れていたが、委員のメンバーは、教育委員会の指導主事、校長や教頭などの管理職、コンピューターメーカーの責任者、大学の教員などであったが、それぞれが自分の仕事として、自分の研究テーマとして、真剣に議論し、労力をかけたことである。
報告書ができ上がった時、何か嬉しさとすがすがしさを感じたのは、私だけではないだろう。それは、このテーマに関係している。
2つは、このテーマである校務の情報化は、教員一人ひとりが、喫緊に解決すべき内容だと感じていることである。教員の多忙さは、世間の常識を超えている。企業の厳しさもよく指摘されるが、
学校の厳しさは、時間的な労働量の多さもさることながら、人を扱うというメンタルな面の負担が大きい。
人は誰でも人間関係に神経を使っている。神経を使うと、心底から疲れた、ストレスから解放されたい、と思うようになる。だから、事務的な仕事は、できるだけ早くICT化しなくてはならない。
3つは、ICT化は必然の流れだという認識である。教員の中には、まだ私は無理ですという声もあるが、
例えば、カメラ屋さんに写真の現像をお願いすることはなくなった、年賀状を依頼することもなくなった。ほとんどがデジカメや自宅のパソコンでという時代になった。それが社会や時代の流れと言える。それは、役に立つ、便利、効率的、時間が少なくて済む、という単純な理由からであるが、教育界には、この認識が誤りというような風潮がある。
それは、先に述べた事務的な処理と人を扱うという教育の仕事を、区別しないで混同しているからではないだろうか。世間が同情し、うつ病の発生率が高くなるほど、多忙を極める教員には、速やかに校務のICT化を進めなければならない。
4つは、その情報化の方法の普及の研究と整備である。
学校の勤務時間だけでは、校務が処理しきれないことは明白で、学校にいる間は、授業、給食指導、クラブや部活動指導、子どもからの相談、保護者への対応、教育委員会からの調査、職員会議や校務分掌の委員会、成績処理など、数え上げればきりがない。
しかも、すべて気の遣う仕事で、決して誤りがあってはならない。だから、規則では禁じられていても、USBメモリなどに書類を保管して自宅に持ち帰るケースが見られる。
このことで、教員を非難してはいけない。どうしたら解決できるか、妥当な方法を研究し、安全な仕組みを作る必要がある。今日の技術では、十分に対応できるので、その普及をぜひ図っていただきたい。
5つは、将来の情報化について、抜本的に在り方を見直すことである。
現状では、自宅からインターネットで学校と結んで仕事を継続する仕組みであるテレワーキングは、認められない。教員の労働時間の制約から考えれば、雇用契約や教育公務員法にも触れる微妙な問題を含んでいるからである。
しかし、安心して自宅で仕事ができるテレワーキングは、教員の誰も異論を唱える人はいないであろう。
この在り方を研究し、事例を積み上げて、対応する必要がある。CEC(コンピュータ教育開発センター)では、この実証実験を始めている。
赤堀先生
白鴎大学教育学部 教授・学部長、教育テスト研究センター 理事、
東京工業大学 名誉教授、(財)コンピュータ教育開発センター(CEC) 理事長、
(社)日本教育工学振興会(JAPET) 理事、日本視聴覚協会 理事、
(財)パナソニック教育財団 常務理事、日本教育工学協会(JAET) 常任理事。
教育工学を中心に様々な教育実践、教育研究に取り組んでいる。