2011.01.18
学校の情報化推進に不可欠な管理職の役割
2009年3月、文部科学省から「教育の情報化に関する手引き」が出され、
新学習指導要領のもとでの教育の情報化が円滑かつ確実に実施されるよう、
教員の指導をはじめ、学校・教育委員会の具体的な取り組みが示されました。
もとより、教育の情報化の推進は、
政府の2008年7月の「教育振興基本計画」を参考に、
地域の実情に応じた教育政策の基本計画の中に位置づけられるべきものです。
特に「教育振興基本計画」は今後10年間を通じての
目指すべき教育の姿が明記されるのです。
そこで関連する施策として、
基本的方向で「子どもたちの安全・安心を確保するとともに、
質の高い教育環境を整備する」の中で、
「分かる授業」の実現や「確かな学力」の向上、
事務体制の効率化や家庭や地域との連携に資するよう、
学校における情報化の推進に取り組むと明記されたのです。
2010年8月には、 21世紀にふさわしい
学校教育の実現に向けた「教育の情報化ビジョン」も公表され、
情報通信技術を活用した教育の質向上への新たな取り組みも示されました。
さて、このように、教育の情報化推進に向けた施策が動く一方、
現実の学校の姿はいかがでしょう。
個人情報の漏えい問題が度々問題になっていますが、
教育委員会や学校での情報セキュリティポリシーの策定や情
報セキュリティポリシーに準じるガイドラインの策定の現状を知るにつけ、
その意識の低さに驚かされます。
本年7月に公表された平成22年3月現在での学校における教育の情報化などの実態に
関する調査報告によれば、教育委員会レベルで学校の情報セキュリティポリシーを策定し
運用しているのは約半数、学校で情報セキュリティポリシーに準ずるインターネット
利用規程等のガイドラインを策定し運用しているのは未だ一割台です。
これでは形式的に情報セキュリティポリシーを策定しただけと、
見られても仕方ないのが現実です。
このような現状の中で、日常的なICT利活用の推進に学校が一丸となって
取り組むには何が必要でしょうか。
管理職の意識改革によるトップマネジメントこそがこの現状を改革できる
キーではないかと思うのです。
教育の情報化に関する先進国の英国では、2003年から
SLICT(Strategic Leadership of ICT)研修と称して、管理職のための
戦略的ICT研修を実施し、大きな効果をあげたことが知られています。
学校の管理職が、学校課題の解決に向け、ICTを有効に活用して
教職員一丸となって取り組むための戦略を考えるという研修です。
もちろん、リスクマネジメントの内容も入っています。
2003年当初は1割程度の参加者しか得られなかったとのことですが、
地域教育委員会や地域研修センターの協力を得て、
最終的には全学校の4割近い管理職の参加が得られるまでになり、
2008年まで続けられました。
約25万円の受講料の8割は国が負担したのです。
2008年からは、その成果が認められ、校長養成カレッジ(NCSL)の
研修カリキュラムとして位置付き、現在も続けられています。
全ての管理職がICT利活用の意義や課題を理解し、
学校ぐるみで取り組む体制が取られているのです。
私が会長を努めさせていただいている、
日本教育工学協会(JAET)では、
2007年度から文部科学省の委託を受け、
日本版の管理職のための戦略的ICT研修(JSLICT)カリキュラムの
開発を行ない、昨年から実運用を行ってきました。
既に700名以上の管理職が本研修を受講しておられますが、
未だ全学校の2%に至りません。
しかしながら受講された管理職からは、
ICT利活用の意義や課題についての理解のみならず、
学校が一丸となって取組む組織マネジメントへの理解が高まったとの意見も
多くいただいています。
山西先生
富山大学 名誉教授、上越教育大学監事
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長
日本教育工学協会(JAET)評議員
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長
インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた
教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。
専門は、教育工学、情報教育。