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研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

ISEN委員長 山西先生のコラム

2011.02.09

管理職のための戦略的ICT研究プログラム

本稿では、以前のコラムで紹介した「管理職のための戦略的ICT研究プログラム」の
内容や方法について紹介します。

(1)「教育の情報化」を理解し、学校の課題を整理する

多忙な管理職を対象にするということで、まずは実施可能であること。
次に、研修の受講で終わるのではなく、研修で考えたことが次への展開
となるよう、知識伝達型ではなく問題解決型研修とすることを考えました。

具体的には、約3時間程度の短時間で行えるワークショップ形式の研修です。
研修の手順は以下のようになっています。

(1)講義 → (2)学校課題の整理(個別学習) → (3)グループワーク(課題の整理) →
(4)講義 → (5)グループワーク(改革への戦略立案) → (6)プレゼンテーションと討論

最初に、教育の情報化のねらいや課題、多様なICT活用などについて、
事例をもとに講師による講義です。講義の最後に、開発されたDVD教材
「情報化時代の学校経営」を視聴し、講義内容の理解を深めてもらいます。

本教材は、分かる授業づくりに活かされる実物投影機やデジタルカメラなど、
手軽なICT活用で児童生徒の理解や興味関心を育てる授業づくり、
情報モラル教育の必要性、校務でICTを活用するメリット、学校の日常を発信し、
地域や保護者との信頼関係を築くホームページの活用など、学校における
ICT活用の事例と管理職の役割を簡潔に紹介する内容から構成されています。

続いて個別での課題整理に入ります。講義やビデオを見て、
教育の情報化の視点で見た自分の学校の課題が何かを考えてもらいます。
同時にその解決に向けて、現状の中でどのような解決の手立てが
考えられるかをまとめてもらいます。

ここでは、KJ法による構造化分析手法を用い、それぞれに用意された
付箋紙を使い、青は課題、赤に解決のアイデアを書いていきます。

続いてグループワークに入ります。個々に考えた課題や解決法を
グループとしてまとめていくのです。グループは4、5人。
似たような課題を集めて構造化し、構造化された課題に
それぞれカテゴリー名を考えてもらいます。 

模造紙の上には、「教員の意識」「ICTの授業実践」「情報モラル教育」
「校務への適用」等々のカテゴリーが並びます。この構造化の過程で、
互いの学校の実情を知ると同時に、解決に向けた発見や共感も生まれ、
管理職としての悩みや苦労が共有されていきます。

 

(2)改革へのビジョンを考える

ワークショップ後半は、いよいよ管理職のリーダシップで
改革への戦略を練るという研修の本題です。

最初に講師による、「組織的取り組みへの戦略」の講義で、
学校が一丸となって改革に取り組むには「ビジョン」を持ち、
その実現に向けた「組織づくり」や「経費の担保」が重要なことを学びます。

教職員の意識を揃えるためにも、「ビジョン」を示し、
改革後の学校の姿を皆がイメージできることが重要です。

組織づくりでは、保護者や外部支援人材の協力、
評価に向けた研究者の協力も必要になってきます。

経費の確保も管理職の重要な仕事です。
教育委員会からの配分を待っているような受身では困ります。
近年は公的、民間を問わず多くの研究助成があり、
ちょっとそのような視点を持つだけで、改革がよりスムーズに進むのです。

講義の後、いよいよ改革戦略を練るワークショップです。

机上には、前半の議論で洗い出された教育の情報化の視点で
見た学校課題や解決案が提示されています。

これらの課題をこれからどのように解決し、最終的にはどんな学校にするか。
講義や先進的事例を参考に改革に向けた計画を考える活動です。

管理職の考えるビジョンをどのように教職員に理解してもらうか、
それぞれの経験を語りながら現実的解決方策を考えるのです。
講師のアドバイスを受けながら短期的、長期的改革の実現計画を策定し、
その実現プランをまとめるのです。

最後はプレゼンテーションと討論です。
グループ毎にまとまった改革プランについて発表してもらいます。
ビジョンは適切か、組織的取り組みになっているか、
実現の可能性などについて意見交換しながら考えを深めます。

最適な解決案を知ることではなく、
より良い解決案を創りだす方法を学ぶのが本研修の目的なのです。

受講した管理職の感想も、管理職として教育の情報化推進に向けて
何をやらねばならないか見えてきたという意見など、
評価の高いものが多く見られました。

現在までに約700名の管理職が本研修を受講されていますが、
日本の学校は約4万校。まだまだ一部の管理職の研修に過ぎません。
望ましい教育の情報化推進のために、日本教育工学協会では、
本研修を今後ますます普及させていく活動に取り組んでいきたいと思います。

 

終りに、下記研修情報提供サイトで、上述した映像教材や
各地の研修の様子が視聴できますのでご覧いただければ幸いです。

【今回の記事のプログラムの詳細はこちらです】
・学校におけるICT活用のための管理職研修プログラム(JAET)
http://jslict.org/

山西先生

富山大学 名誉教授、上越教育大学監事
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長
日本教育工学協会(JAET)評議員
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長
インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた
教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。
専門は、教育工学、情報教育。

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