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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2011.07.19

ネットワーク社会における教師の専門性

情報化を成功させている地域では、教育委員会や学校が目指す教育ビジョン
が明確に共有されています。その教育ビジョンを実現しようとする
様々な教育活動に、上手にICT活用を組み込むことが成功のポイントとなります。

全職員でのICT活用が創意工夫されるだけでなく、教師や教師集団の
専門性を高める契機になっている点は注目に値します。
そこで創られている学校文化は、子どもたちはもちろんのこと、
保護者や地域からも支持されるものです。

例えば「わかる授業」、「学力を向上させる授業」、
「思考・表現させる授業」など授業改善に取り組む場合、

・「授業(単元)を構想する力量」
・「子どもたちを前にして臨機応変に授業を実践する力量」
・「授業結果を適切に評価する力量」

などが教師に求められる専門性となります。

授業でのICT活用が成功している学校では、これらの力量とICT活用がリンク
されており、教師それぞれの工夫を協議し合う雰囲気や適切にコメントできる
リーダーシップがみられます。

教師が本来目指す力量にICT活用を機能させる自律的な体制があるとき、
教育情報化の価値が高まります。授業が変わり、その授業の様子を笑顔で語る
子どもの表情に接する保護者は、学校への信頼を高めることになります。

このような子どもや保護者の変化を目の当たりにした教師は、
改めて教えることへの手応えを感じながらプロ意識を高揚させていきます。

さて、このメーリングリストに参加されている方の多くは、ネットワークの
利用普及に起因する課題やトラブル対応に関心をお持ちだと思います。

これらに取り組むときも、教師の専門性が発揮されるような配慮が重要です。
ここでは、「子ども理解」や「生徒指導」の視点から、ネットワーク社会
における教師の専門性について考えてみたいと思います。

平成22年3月に文部科学省より発表された生徒指導提要では、
「インターネット・携帯電話にかかわる課題」が説明されています
(第6章 生徒指導の進め方、2.個別の課題を抱える児童生徒への指導、第7節)。

つまり、ネット社会で子どもたちが出くわす課題やトラブルに対し、学校の
生徒指導体制をもって、組織的に対応することが明確に求められたことになります。

留意すべきは、子どもたちの健全な成長や社会的な資質の育成には、
ネット社会での生活を見逃せないと確認されたことであり、
これまでの生徒指導を基礎とした対応が求められるということです。

これまでに経験しなかったネット社会特有の事例に直面するときの、
教師の戸惑いには理解できますが、これまでの生徒指導で教師や学校が
経験を積んできた、「教師の在り方」、「子どもたちとの関係構築」、
「保護者・地域との協力関係」などを生かした志向が大切です。

宮崎県教育委員会では、Web上にネットいじめ目安箱を設置し、
ネット上のいじめや学校非公式サイトなどに関する情報を収集するとともに、
いじめ被害などに関する相談に応じています。

また、行政、ネット技術の専門家、警察、そして生徒指導担当の教諭で
構成される「ネットいじめ対策会議」を設置し、生徒指導・安全担当の
指導主事を中心に、事例及び対応策についての意見が交換されています。

そこでは、生徒指導の経験が豊かな教師だからこそ、迅速に解決できた事例
も紹介されます。

ネット技術の進展・浸透は速いため、他の組織との連携は不可欠ですが、高めるべき
教師や学校の専門性について再確認することを怠ってはいけないと感じます。

宮崎県では、目安箱、対策会議、全児童生徒へのカード配布などにより、
教育委員会、学校、教師が一体となって、「ネットいじめを許さない」との
メッセージを児童生徒や地域に表明している点も大きな意味があるように
感じています。

ネット社会で孤立する危険性のある子どもたちに対して、責任ある姿勢を
示すことも、教師や学校に求められる専門的な力量・役割と考えます。

 

(参考)
・新地辰朗、鹿島嘉節、"CompTIA CTT+"を参考にした
授業力チェックリストの考案
・第26回日本教育工学会大会講演論文集P551-552(2010)
・吉崎静夫、教師の意思決定と授業研究、ぎょうせい など
・生徒指導提要
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/04/1294538.htm
・宮崎県ネットいじめ目安箱
http://meyasubako.miyazaki-c.ed.jp/

新地先生

宮崎大学大学院教育学研究科 教授、日本教育工学協会(JAET) 理事。 ICTの統合的・計画的利用による教育経営プログラムの開発や、 教師への情報メディア活用の推進などを研究テーマとして掲げている。

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