2011.12.21
これからの高等教育機関とe-Test
1.少子高齢化・人口減少社会と高等教育機関
わが国の終身雇用制と年功序列型賃金というシステムは、「敷かれたレールに乗る」
ことによって安定した人生を設計できると思わせてきた。多くの人々が少しでも安定した
レールに乗ることを望み、よい教育を受けたいと考え、これに合わせて高等教育機関は
飛躍的に増加してきた。
しかし、現在のわが国は、年功序列型賃金の前提であるピラミッド型人口構成が既に
崩れ、急速な少子高齢化、人口減少社会への転換という大きな環境変化を迎え、
大学の定員割れ、学力の低下が問題化している。
ただ、これをnegativeにとらえるだけではなく、ライフコースのスケジューリングに
自己の意思や選択が反映する程度が高まっているというpositiveな見方もできる。
若い世代では、自己や家庭を重視し、転職や離職も積極的に行う人が増えている。
人口減少という事実は事実として受け止め、多様な人生設計ができる時代の到来と
とらえることも重要であろう。
離転職をしながら、キャリアアップをはかるためには、教育研修、情報収集等が必要で
あるから、高等教育機関は、一度社会に出た人に対して、能力開発支援・再教育を行う
機関としての役割が期待される。
2.社会人の学ぶ大学とICT(Information and Communications Technology)
著者の勤務する大学の二部(夜間)で学ぶ学生は多様である。
最近は、大学を卒業してどこかに勤務しながら、学士編入学で入学してくる学生が増えてきた。会社員や公務員、自営業、医師、弁理士、公認会計士、小学校から大学までの
教員などが、キャリアアップ、自己啓発などを目的として学んでいる。
これらの学生の高い学習意欲に応えるためには、インターネットを利用したe-Learningの
ようなICT導入が有効であることは、これまでさまざまな場で報告してきた。現在、多くの
高等教育機関は、何らかの形でe-Learningを導入しているが、テストに関しては、
単位認定における公平性の確保のため、同時間同一場所に学生を集めて行っているのが現状である。
しかし、高等教育機関が、真に社会人の能力開発支援・再教育機関となるためには、
空間的時間的自由度の確保が可能なe-Testの導入が検討されるべきであろう。
e-Testでの個人認証は、 試験開始時のIDとパスワード入力のような、「なりすまし」が
極めて容易な方法では不適当である。また銀行のATMのような生体認証は
有効ではあるが、試験開始時のみでは入れ替わりが容易であるし、試験時間中頻繁に
認証を行えば、受験者の負担になってしまう。
そこで、著者は試験中には必ず解答筆記を行うという事実に着目し、受験者の手書き
解答に、手書き文字認証を応用することを考えている。試験時間中、時系列にデータを
取得することを考えて、入力装置にペンタブレットを用い、紙ベースでの手書き文字認証
方法(静的情報)にペンタブレットから得られる動的情報(筆圧など)をプラスした認証方法
や、ペンタブレットから得られる動的情報のいくつかを組み合わせた認証方法について
報告してきた。
現時点では、実験段階であり、単位認定テストでの実用化には至っていないが、今後の高等教育の役割を考えたとき、是非とも実現したい技術である。
赤倉先生
東京理科大学教授、博士(人間科学)、博士(法学)。
東京理科大学では、工学部経営工学科、及び大学院工学研究科経営工学専攻人間・情報分野に所属、
同大情報科学教育センター兼務、教育工学、法工学に関する研究を行っている。
著書は、「教育課題解説ハンドブック」(ぎょうせい、2008年)、
「幼保施設における安全・安心ハンドブック」(ぎょうせい、2007年)、
「情報教育事典」(丸善、2008年)、「教育工学事典」(実教出版、2000年)、
「マネジメントサイエンス」(培風館2005年)など(いずれも分担執筆)。
現在、日本教育工学会理事、電子情報通信学会教育工学研究専門委員など。