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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2012.02.02

クラウドと校務の情報化を考える「学びのイノベーション&セキュリティフェア」10月8日レポート

2011年10月7(金)〜8(土)日に開催した、クラウドと校務の情報化を考える
「学びのイノベーション&セキュリティフェア」2日目の講演レポートです。

・「ICTの利活用によっていかに教育課題を解決するか」

・「校務の情報化の最新動向教育クラウドによる校務の情報化と全国標準化」

・「校務の情報化への取り組みとその効果」

・「セキュリティ意識を高める研修の効果とは」


「ICTの利活用によっていかに教育課題を解決するか」
白鴎大学 教授 赤堀侃司氏

10081.jpg経済協力開発機構(OECD)によるPISA(生徒の学習到達度調査)の問題を例に、日本の大学生を諸外国の学生と比較した時の応用力の弱さを伝えられました。また、教員の精神疾患の割合が近年上昇していることから、教員の多忙感が一つの原因にあると講演されました。このような課題に対して、ICT利活用の可能性を示された白鴎大学の赤堀氏。事務処理や資料作成の時間はICTで効率化でき、多忙感の軽減につながります。ICTの利用は教員だけでなく、学生への影響も大きいと期待されています。赤堀氏は「パソコンや各種コンテンツなどを用意すれば、学生は自分の考えを自分のやり方で資料などにまとめるし、まとめるだけの能力がある。これが応用の効く人材育成につながる」とICTの可能性について話されました。

ICTの教員への利点としては「日本の先生のすばらしさは自分の家に
仕事を持ち帰るほど、愛情深く、まじめなこと。公文書などデジタル化して
作業することが、作業の効率化や負荷軽減になり、このようなすばらしい先生方を
守ることになる」と、ICT機器を活用することで教員は多忙感から解消され、
より学生と向かい合える時間を作り出せると訴えかけられました。

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▲文部科学省による教員の精神的疾患の割合

「眼鏡や杖、コルセットが人々の生活を補助するように、ICTは教育を補助する」と
赤堀氏が言われるように、積極的に日々の授業や校務にICTを取り入れ、
浸透させていくことは教育の向上に繋がるのではないでしょうか。


「校務の情報化の最新動向教育クラウドによる校務の情報化と全国標準化」
鳴門教育大学大学院 准教授 藤村裕一氏、上越市教育委員会JoRNEサポートセンター長(教育CIO) 曽田耕一氏、宮古島市教育委員会 田場秀樹氏、群馬県太田市教育委員会 伏島均氏

1008b1.jpgimg22.jpg鳴門教育大学大学院/ISEN委員長の藤村氏を議長として、パネリストを招いて行われた講演。この講演では、指導要録などの電子化に関する標準化と、クラウド導入のメリットが焦点となりました。

文部科学省は「学校教育の情報化に関する懇談会教員支援ワーキンググループ」の検討を通して、指導要録などの「転学などの際に必要な校務関係文書」の原本の完全電子化を行い、電子情報のままネットワークを介して転学処理・進級処理ができるよう計画を進めています。

この流れの中で、(財)全国地域情報化推進協会(APPLIC)の主査も務めている藤村氏は「高機密・高信頼性、高付加価値」が提供できるシステムの検討、そしてデータの標準化についてAPPLICとして検討しています。

「公文書は20年間保存しなければならず、現実的に考えると紙では管理が
できません。可能にするのは、教育クラウドです。そして教育クラウドは、
保存管理のよさに加えて、教育行政と学校が連携するのに不可欠な
インフラとしても役立つだろう」と藤村氏。教育クラウドと文書管理は、
さまざまなニュースでも取り上げられているキーワードだけに、会場の参加者は
熱心にメモを取られていました。

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▲指導要録などの電子化の全国標準化への取り組みを紹介

上越市教育委員会の曽田氏は「上越市では新潟県中越地震を教訓に、
すでにデータセンターとネットワークセンターを教育ネットワークで繋げている。
東日本大震災もあり、クラウド化の流れは教育業界でも加速するのではないか」と、
紙文化が主流の学校にとって大きな変化があったことを報告されました。

宮古島市教育委員会の田場氏は「宮古島では以前からクラウドの
利点に目をつけ、すでにクラウドを導入している。宮古島は小さな島ではあるが
学校数が多く(小学校20校、中学校16校)、情報共有が課題だった。
クラウドによるグループウェアを利用することで、教育委員会と各学校、
そして各学校間の情報共有がうまくいっている。さらにクラウドは
サーバ購入の必要がないので低コストで環境が作れた」と話されました。
このような課題を抱えている自治体は多いため、今後の参考にされた
参加者は多かったのではないでしょうか。

太田市教育委員会の伏島氏は「校務支援システムを導入している
群馬県太田市では、子どもの初感を教職員全員によりシステムに記録できる。
この初感内容により、以前よりも詳しく保護者や子どもに伝えられている。
このような情報共有、連携体制が作れるのも一つのクラウドメリットだと考える。
今後は標準化の同行に注目したい」と、教育クラウドが学校へ溶け込み、
各教員が有効に利用でき、そして子ども・保護者にまで影響を
与えている様子を示されました。

一人ひとりの子どもの情報が安全に保管され、学校内での利用はもちろん、
クラウドを通して学校と保護者が密に情報を取り合う日も近いのかもしれません。


「校務の情報化への取り組みとその効果」
相模原市教育委員会/相模原市立総合学習センター 後藤幹夫氏、伊勢原市教育委員会/伊勢原市教育センター 永山満夫氏

sagamihara.jpg神奈川県相模原市と伊勢原市の校務の情報化の取り組みに関する講演。相模原市では、平成9年からインターネット接続が開始され、平成22年には全校に校内LANとコンテンツサーバが設置されました。学校グループウェア「e-ネットSAGAMI」は、平成17年から利用され、段階的に機能の拡張と利用を進められてきました。「計画的に利用を進めてきたことで、平成18年と平成21年をデータ量で比較すると15倍の違いがあります。つまりデータ量の違いだけ、利用が促進されたことになります」と相模原市教育委員会の後藤氏。

一度に全機能の利用を推し進めるのでなく、必要なものから段階を応じて
普及させてきたことで、教員一人ひとりのICT活用力の着実な向上が
あったようです。導入、運用の経験から、ポイントとして「1.学校現場の
意見を尊重する」、「2.計画的・段階的に導入する」と説明。
「初めから100%を目指すのでなく、ハードウェア、ソフトウェアのどちらも育てる
姿勢が大切」と後藤氏。多くの自治体でグループウェアや校務支援システムの
導入と運用は課題になっているだけに、多くの参加者から参考になったと
意見が寄せられました。

一方、伊勢原市ではCMS(コンテンツマネジメントシステム)による
学校Webサイトの作成運用が進められています。
伊勢原市教育委員会の永山氏は「学校Webサイトを効果的に使い、
新鮮な情報を保護者や子どもに発信し続けたい。
しかし、学校間で温度差があり、更新する学校と更新しない学校が
できていた」と説明。

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▲CMSの実践事例。学校HPでは保護者のみ閲覧できるページもある

これに対してCMSを利用することで、「簡単に、美しく、みんなで、
どこでも学校Webサイトの更新が行える」と説明されました。
また、校務支援システムについても「子どもの評価は緻密な分析や
取りまとめが要求されるが、校務支援システムなどがなければ管理も
含めてできない」と、紙による管理ではまとめきれない、先を見据えた
子どもの評価基準を校務支援システムで実現されていました。


「セキュリティ意識を高める研修の効果とは」
東京都立第四商業高等学校 校長 大林誠氏、東京都立立川高等学校 校長 下條隆史氏、鳴門教育大学大学院 准教授/ISEN委員長 藤村裕一氏、ISEN大溝副委員長

鳴門教育大学大学院/ISEN委員長藤村氏を議長として、パネリストを招き、
さまざまな立場で学校の情報セキュリティ対策の実情と対策が紹介された講演。
まずISEN副委員長の大溝が学校での情報セキュリティ事故の傾向を説明、
そして危険チェックシート(ISENサイトで配布中)を利用して行う
ワークショップを実施しました。

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▲情報セキュリティ対策の実情と対策を紹介

ワークショップでは、学期末の職員室イラストを参加者に配布し、
まず各々で危険だと思われる箇所を記入していただきました。
5分後に3名の方に記入箇所を答えていただき、それぞれ対策方法について
大溝が伝えました。回答者の気づきを受けて、他の参加者は自分では
気が付かなかった箇所をチェックされていました。情報セキュリティへの
関心の高まりが、会場全体で感じられた光景でした。

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▲危険チェックシート上の懸念点を参加者で洗い出し

危険チェックシートを利用した研修のメリットは、座学ではなく「気づき」から
主体的に学べることです。パネリストとして参加された東京都立立川高等学校の
下條氏からは「知らないでは済まされない情報セキュリティポリシー。
皆で話し合い、会話の中から学び合うことが大切。
この危険チェックシートを使えば、皆で学び合うことができる」という意見。
絶対に安全という回答がない情報セキュリティだからこそ、学び合うことが
大切なのかもしれません。

東京都立第四商業高等学校の大林氏からは「研修センターにはなかった
研修方式。『こうしなさい、ああしなさい』の一方的な研修ではなく、
自ら考える研修になる」という意見。各教員が危険性に気づき、
対策を考える機会を持つには最適な研修だと考えられたようです。

「性善説でなくUSBメモリは拾ったら中身のデータは見られると考えた方がよい。
だからこそ、教職員は情報セキュリティの概念だけでなく、具体的な対策を
理解することも重要。そして教育委員会はシステム面でセキュリティを
より確保するべき」とISEN藤村委員長。

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▲ある自治体でのUSBキーの紛失を前提とした対策を紹介

教員は日頃から子どもの成績情報などを取り扱う立場です。
そのため、情報セキュリティの概念などの理解に加えて、日々の訓練や
気づきによる一人ひとりの意識向上が組織全体のセキュリティレベルの
強化には不可欠だといえるでしょう。

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