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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2012.02.01

コミュニケーション力育成の授業デザインの肝

◯コミュニケーション力の調査
 現行の学習指導要領においては、全教科・領域を通して言語活動を充実する
ことが示されています。それを受けて学習指導要領解説各教科編及び領域編には
言語活動について例示されています。

 国語科において、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の基本的な
力を定着させるとともに、各教科等において情報を整理したり記録したり、相手に
分かりやすく説明し討論したりするなどの学習活動を充実していくことが求め
られています。

 また、国語科以外の教科においても, 言語活動に充実に関連する表記があります。
例えば、「算数科新学習指導要領第4章指導計画の作成と内容の取扱い 
2 内容の取り扱いについての配慮事項 (2) 考えを表現し伝え合うなどの学習活動」
において、「(2) 思考力, 判断力, 表現力等を育成するため、各学年の内容の
指導に当たっては、言葉、数、式、図、表、グラフを用いて考えたり、 説明
したり、互いに自分の考えを表現し伝え合ったりするなどの学習活動を積極的に
取り入れるようにすること。」としています。

 このように、国語科を核に言語活動を充実することによって、論述力や
コミュニケーション力を育成していくことが、教科横断的に求められているのです。
 筆者らは、CEC(財団法人コンピュータ教育開発センター)の事業として、
「21世紀型コミュニケーション力育成に関する調査研究」に取り組んできました。

事業の目的として、以下のように示しています。

「小学校学習指導要領に対応させながら言語活動と情報活用能力をキーワードに、
コミュニケーション力を『主体的に情報にアクセスし、収集した情報から課題解決
に必要な情報を取り出し、自分の考えや意見を付け加えながらまとめ、メディアを
適切に活用して伝え合うことにより深めていくことができる能力。』 と定義し、
これをスキルの視点で捉えると

 ・人やメディアにアクセスするスキル
 ・複数の情報から必要な情報を取り出し新たに情報を生成するスキル
 ・メディアを活用しながら表現・交流し合うスキル

になる。

 このようなスキルは学校の教育活動全体を通じて身についていくものであり、
私たちはこれを端的に『21世紀型コミュニケーション力』と称することにした。
これを育成する手法について研究する。」

 この中で、教員がコミュニケーション力育成で何が重要だと考えているのか、
実際にどのような指導を行っているのか等についての全国への教員の実態調査の
結果、コミュニケーション力を協調的段階としての「対話」「交流」と、
主張的段階としての「討論」「説得・納得」の4つの段階に整理することが
できました。

 「対話」「交流」は考えを広げるレベルであり、他者との考えの
共通点や相違点を実感していきます。一方、「討論」「説得・納得」は、考えを
収束させるレベルです。いろいろな考えがあるが、最適な考えは何なのか、
相手にわかってもらうにはどうしたら良いのか、などを吟味していきます。

◯コミュニケーションの肝は「からみ」と「ゆらぎ」
 実際の授業において、表面的に話し合い活動をしたり、グループ学習を行ったり
すればコミュニケーション力が育成できるというわけではありません。
どのような「からみ」(絡み)の場面を設定できるか、想定できるかが勝負と
なります。そのためには、知恵を出し合い乗り越えなくてはならない学習問題・
課題の吟味が重要になります。

必然性・切実感のある問題・課題であるかどうかを検討せずして、子どもたちに
とって実のある議論の場にはなりません。また、一人ひとりが、考えを深め、
ねりあげる場の保証も必要です。
すぐにグループ活動にしてしまうと、一見、話し合いが活発に見えても、議論が
深まっていなかったり、グループの中で発言できない子も出てきたりしてしまいます。
それは、個人ベースでの考えの醸成が十分にできていないからです。ここを教師が
どうみとり、そのような子によりそってバックアップができるかが結局、
どこまで深く「からめるか」に反映してきてしまうのです。

 さらに、授業の中で、どのように個々の「ゆらぎ」(揺らぎ)を自覚させ、
迫れるかが課題となります。

 例えば、国語科で物語的な文章の教材において、自分の読みとりについて解釈し、
それを自分なりに表現する(読んでいく)学習活動があります。さらにそれを教室で
披露し、友だちに聞いて(聴いて)もらう。しかし、自分の解釈が表現に100
あらわれているか、それを受け取ったともだちがそのように聞き取って(聴き取って)
くれるかということろに「ずれ」が発生し、自身の揺らぎとなって、改善に迫られる
のです。

 1つ事例をご紹介しましょう。
 熊本の前田教諭(実践当時:熊本市立飽田東小学校)は、国語科の学習において、
映像制作をグループで行わせる際に、ナレーション原稿については全員にさせました。
制作する静止画映像6枚については、すでにグループで考えてありますが、国語科
であるので一人ひとりが個々に原稿を書くことは国語科であるのである意味当然と
言えましょう。

 しかしその後に、一人ひとりが書いた原稿からグループで制作するものに最適な
ナレーション原稿の吟味が待っています。合作にするのか、そののまま誰かの
ナレーション原稿を採用するかは、グループの話し合いにかかっています。子ども
たちにとっては、きつい作業になるかもしれませんが、「こういうつもりで書いた」
という意図・解釈と、実際に書かれた原稿内容についてのゆらぎを感じることに
なります。

 他の人の考えを自分の中に取りこむということでは、「現実」「本音」と「理想」
「建前」の間のゆらぎもあります。スローガンだけでは、伝える対象(相手)が
動かないことがあるのです。相手の本音に耳をかたむけ、ゆさぶられながら、
「ではどうするか」を再度考えるはめになることもあります。特に、「討論」
「説得・納得」の主張的段階では、ここが重要となるのです。

 このように、自分の考えに立ち止まり、さらに考え関わろうとするその瞬間に、
筆者らが整理した21世紀型コミュニケーション力が培われることになると考えます。

専門家・研究者

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