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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2012.03.22

先生とICT支援員が一体となって進めるICT利活用【福島県新地町】

今年の1月27日、ISEN事務局スタッフが、福島県新地町で開催された
「平成23年度新地町ICT活用発表会」を見学してきました。

新地町は、総務省の「平成22年度 地域雇用創造ICT絆プロジェクト
(以下、ICT絆プロジェクト)」採択自治体です。

今回の活用発表会では、午前中は各学校でのICTを使った公開授業、
午後の全体会では新地町の教員やICT支援員、企業担当によるパネルディスカッションが
行われました。
各学校の工夫や、ICT支援員と先生方の協力体制、他校との連携など小規模自治体
ならではのさまざまな取り組みについて知ることができました。

 

●新地町のICT絆プロジェクト概要
新地町は人口約8,000人の小さな町で、福田小学校、新地小学校、駒ヶ嶺小学校の
3校の小学校があります。

平成22年度、ICT絆プロジェクトに伴い下記の機器が導入・整備されました。

 ・電子黒板(各クラス)
 ・実物投影機(各クラス1台ずつ)
 ・タブレットPC1人1台(3・4年生にiPad、5・6年生にCM-1)
  *実際には学年関係なく、全学年で活用しています。
 ・教育用アプリケーション・コンテンツ

また、ICT機器の利活用を支援するため、ICT支援員の雇用を行いました。 
ICT支援員は福田小学校で2名、新地小学校と駒ヶ嶺小学校で各3名、計8名が配置され、
月曜日から金曜日まで各校に常駐で勤務し、授業支援などを行っています。

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◆公開授業

●ICT機器になじみ、使いこなす児童

公開授業では、それぞれの学校で
電子黒板や実物投影機、iPadなどを使った授業を実施していました。

体育の走り高跳びの授業では、iPadと電子黒板を活用。
最初に電子黒板を使って、手本となる動画を再生して動きを確認します。
その後の練習では、児童が4人1組になって机に固定したiPadを使い、お互いの様子を
撮影。
iPadは、撮影したものを数人で覗き込んで見るのにちょうどよい大きさです。
お互いの様子を見ながら、「もうちょっと踏み込んでみたら?」などとアドバイスをしあって
いました。
「タップ」などのiPad独特の操作も悩むことなくできており、使いこなしている様子が
随所で見られました。

体育の授業では、児童が個人で練習する際、先生の目が全体に行き届かず、
児童がどこでつまづいているのか、わかりにくくなってしまうことがあります。

しかし、iPadがあれば、撮影したものを保存しておくこともできるので、
放課後などに児童を指導する時にも使うことができます。
 

shinchi_taiku.jpg

▲体育の授業で児童がiPadを使っています。

 

●先生とICT支援員のチームワーク

電子黒板を使った国語の授業では、先生の説明に合わせて、
ICT支援員が画面を拡大表示したり、切り替えたりといった操作を行っていました。
先生は説明や児童への指導に専念しているため、
機器の操作で授業が中断することがなく、スムーズに授業を進めていました。

電子黒板にトラブルが起きる場面がありましたが、先生が「では黒板のほうを見てください」と
すぐに児童の視線を黒板に向けさせて授業をそのまま進めるので、
児童を集中させたまま授業ができていました。

先生が黒板で授業をしている間に、ICT支援員が電子黒板の復旧作業を行い、
復旧後に先生に合図をすると、先生が「ではこちらを見てください」と、再び電子黒板に
切り替えて授業を行っていました。

先生とICT支援員の息が合っており、チームワークのよさを感じました。
shinchi_kokuban.jpg

▲授業の様子。電子黒板の左側に立っているのが教員、
 右側に立っているのがICT支援員です。

 

●ICT機器の支援にとどまらない、ICT支援員の動き

また、ある教室では落ち着かない児童がいた時に、ICT支援員が側に立ってそっと肩に
手を置いて押さえたり、先生の指示を聞いていない児童がいた時に声がけをしていました。
ICT支援員というと、「ICT機器に詳しく、使い方を教えてくれる人」というイメージが
一般的だと思いますが、新地町のICT支援員は、児童への接し方などの
授業支援員としての知識も身に付け、実際に動いていることがわかりました。

ICT支援員が単なる機器の操作方法の指導やトラブル対応を行うスタッフではなく、
「先生と一緒に授業を作っている仲間」という雰囲気がありました。 

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◆パネルディスカッション

午後にはパネルディスカッションが開催されました。
目白大学社会学部教授 原克彦先生がコーディネーターとして参加、
パネリストとして、管理職の教員(教頭)、3校の教員、ICT支援員、ICT支援員業務を
委託された企業担当者が参加し、絆プロジェクト前後の変化、ICT機器導入による効果や
工夫、今後のありかたについて議論しました。

また、和歌山市教育委員会と九州ICT教育支援協議会からもテレビ会議システムで、
それぞれの自治体での取り組みについてのお話がありました。

●「何ができるのか」わからず、ICT機器活用が進まなかったICT絆プロジェクト開始前

現在、高いモチベーションを持ち、ICT機器を活用している新地町の先生方ですが、
ICT絆プロジェクト開始前は、ICT機器について知識が少なく、活用に消極的な先生が
多数いたそうです。

情報担当の先生は「私が各種トラブルの対応をしなければならなかったが、自分の授業も
あるので多忙になってしまった。そんな様子を見て、相談したい先生が遠慮がちに
なってしまい、活用が進まない、という実態がありました」と当時を振り返ります。

ICT機器について詳しくない先生も多く「そもそもICT機器で何ができるのか」という
イメージがない状態だったそうです。
ICT絆プロジェクト採択によって、上記のようなトラブル対応をICT支援員に依頼できる
のではないか、という期待が高まりました。

 

shinchi_zentai.jpg

▲全体会の様子

●震災と学校、ICT機器
新地町の絆プロジェクトを語る上で欠かすことができないことがあります。
昨年3月11日に発生した東日本大震災です。

新地町は福島県の海沿いの町であり、大きな被害がありました。
駅や多くの建物が津波で流されています。

一時は学校も避難所となり、卒業式、入学式も延期となりました。

そのような中で、電子黒板の大画面でテレビを見て情報を入手したり、
iPadを避難者の娯楽として活用したりと、
避難所としての学校で、ICT機器が活用されました。

さまざまな物資が不足する中、情報源や娯楽のための道具として使われ、
被災者の不安を和らげることに役立ちました。

●学校に導入されてからの流れ

学校が再開されてからは当初の予定通り、学校での活用が始まりました。
次のようなステップで、段階的に活用が進められていったそうです。

 1 「やってみる」
   まずは機器についてICT支援員が先生方に説明。
   ICT支援員からアイデアをもらい、まずは色々なICT機器に触れてみる、
      使ってみるということを行いました。
 
 2 「続ける」
   1度やってみたことのうち、またやりたいと思ったことを繰り返してやってみたり、
   「これもできるのではないか」と気付いたことに取り組んでみました。
   先生が効果を実感できて、「使える」という自信につながり、さらなる活用につなげる
   ことができました。

 3 「広げる」
   児童自身がICT機器による効果を実感。
   「こんなことをやりたい」という要望を、児童が先生を通さずに、直接ICT支援員に
   あげるまでになりました。
   朝自習での活用や、児童が発案して授業風景の撮影を行うなど、さらに発展した
   活用ができています。

ICT支援員のサポートによって、機器利用の幅が広がっていったことがわかります。
活用が進むにつれて、ICT支援員が行う支援の内容も同時に広がっています。

 

●ICT支援員の採用基準・研修
ICT支援員の採用、研修では一般的に「学校という(一般企業とは違う)特殊な環境で
働ける人材を雇用、育成できるかどうか」ということが課題として挙げられます。

新地町では、ICT支援員は「ICTに関して一定の知識があること」を基準として雇用されて
おり、学校に関する知識は問わず、これまで一般企業で働いていた人たちが雇用されて
いました。

パネルディスカッションに参加していた和歌山市教育委員会の雇用基準では、ICT機器の
知識よりも「学校で働いたことがあるか」を重視されており、新地町とは対照的です。

新地町のICT支援員は、雇用後2週間ほどの事前研修で、学校特有のICT機器の
操作知識や、学校に関する基礎知識の習得の時間などを学びました。
しかし、実際に学校に配置され、業務をする中で、学校についてもっと知ることが
必要であるとわかり、学校の中で働きながら「学校でどのようなことがあるか」
「どのようなことが必要か」を自分の目で見て、どうしたらよいか考え、身に着けることが
多かった、ということです。

新地町のICT支援員のみなさんは「最初はパソコンの操作の手伝いなどの仕事を
イメージしていましたが、想像以上に学校というのは特殊なところで、すべきことが
たくさんありました。学校の先生方にいろいろ教わることで、ここまで来ました」と
振り返ります。

元々、学校に関する知識はなかったということですが、
「学校のためになることがしたい」「そのために何が必要かを考えたい」という想いの強さ、
モチベーションの高さによって、必要なことを身に着けることができたのではと感じました。

 

shinch_chousei.jpg

▲機器にトラブルが起きたときは、先生は授業を教科書で続け、
  支援員が復旧させています。

●新地町で、ICT支援員と教員の連携が上手くいった理由
ICT支援員を配置した他の自治体、学校からは、
「ICT支援員が学校に入ることによって、学校現場に戸惑いが生まれてしまった」
「何を頼めばよいかわからず、せっかくICT支援員がいるのに活用が進まない」
「ICT支援員が孤立してしまう」といった課題を伺うがあります。
しかし、新地町ではICT支援員が先生方ととても距離が近く、なじんでいるように
見えました。

それはなぜなのでしょうか。

通常、ICT支援員を運用する際には、定期的な会議や綿密な準備が必要だと
思われがちですが、
「やはり、先生方は日々忙しく、それは不可能だとわかった」ということです。
その代わりに重視したのは、日々のコミュニケーション。
休み時間や放課後の会話、授業や学校行事を通して、徐々に、ICT支援員は
「共に授業を作り上げていく仲間」「頼れる先生」という存在になっていきました。

また、ICT支援員同士でを情報共有や意見交換ができたことにより、ICT支援員が
孤立することがなかったことも、高いモチベーションで仕事を行うことができた
理由となっているようです。

これは、全校にICT支援員が常駐していたからこそ、できたことでもあります。

●ICT支援員が見つけた「ICT機器を使ってよりよい授業を行うための課題」とは
九州ICT教育支援協議会の桑崎先生によると、「ICT支援員にICT利活用に関する
さまざまな情報が集約させ、その声を生かすことがより利活用につながる」ということです。

このディスカッションの中でも、新地町のICT支援員の皆さんも、さまざまな意見を持ち、
発言していました。

例えば、「学校向けの機器は、便利だとは思う。しかし、学校での使い勝手を考えると、
通信回線をもっと高速にする、動画編集が可能なハイスペックPCなど、もう少し工夫が
されているとよい」という意見や、
「学校とICT支援員は近い距離でお互いやりとりできている。しかし、機器メーカーや、
ICT支援員が雇用されている企業が遠いため、スピード感が失われてしまう。アイデアを
もっとすみやかに実行に移せるようにしたい」といった意見が挙がりました。

今後、ICT支援員が学校と企業をつなぐ役割も果たして活動したいという思いを、
ICT支援員自身が持っているようでした。
この連携をどのように上手く行っていくかが今後の課題のようです。

●新しい形のICT支援員のありかたを示した新地町

ICT支援員というと、「先生がICT機器を使えるよう、一定期間でサポートする」という
役割をイメージする方が多いかと思います。
しかし、新地町では、「ICTのことはICT支援員に任せて先生と一体となって授業づくりを
行う」という体制ができています。

新地町の先生方は、「ICT機器は道具であり、教科書と同じ。絶対に使わなければという
意識はなく、必要に応じて使うようにしている」とおっしゃっており、先生方がICT機器を
無理せず、有効に利活用する意識ができていると感じました。

平成24年度、新地町では中学校でフューチャースクール事業による取り組みが
予定されており、これまでの小学校での成果を生かすことが期待されています。

小学校でも、今後も数年に渡ってICT支援員を雇用し続けていく方針です。
ICT支援員には今よりさらに授業支援や、全体のコーディネートを行うことが求められて
いくでしょう。
その中で、新たな取り組みのアイデアも生まれるのではないかと思います。

今後の活用の広がりが楽しみです。

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