2012.05.31
大震災後に期待されているクラウド
●東関東大震災で失われた学校の情報
昨年3月11日に起きた東日本大震災の影響は大きい。筆者は昨年10月に二日間
かけて、宮城県の学校を訪問したが、津波による被害の大きさを眼の前にして、
声も出なかった。
たとえば、学校で最も重要な情報である指導要録を学校の耐火金庫に保管して
いたが、津波で流され、300m離れたところで後日発見された学校があった。
中は塩水につかっていたが、乾かして電子化しているとの説明を受けた。
多くの学校では、校内サーバで管理されたシステムの作業をするようになって
いたので、電子媒体に記録していたものが流されてしまった。サーバは、地震対策
と盗難防止のためにワイヤーで固定してあったので、外すことができなかった。
バックアップを金庫に入れておいたが、震災後に復活することはできなかったとの
ことである。
●注目されるクラウド
大震災による情報の消失に関連して注目されているのが、クラウドである。
クラウドの情報は基本的に安全なデータセンターにあるので、地震や停電に対して
安全であると考えからである。
しかし、そのデータセンターが今回のような津波に襲われたり、大規模な停電が
起きたりした非常時まで想定すると、全く安全とは言えない。どこか離れた別の
場所にバックアップを取る仕組みを持つクラウドとしないと安全とは言い難い。
ただ、コストが関係する。
●クラウド化する情報の整理
学校の情報には、セキュリティの観点から大きなレベルの違いがある。
たとえば、指導要録、通知表、児童生徒の記録、健康診断情報などは、最も重要な
情報である。この重要な情報が、学校や教育委員会の外にあるクラウドに保存して
おいてよいのかなどの意見がある。
また、2番目に重要なレベルの情報としては、通知等文書ファイル、学校Webページ、
メール、校務情報、教員会議記録あたりである。このレベルの情報は、標準化が
進めばクラウド化を検討されると期待している。
3番目のレベルの情報は、教育コンテンツ、写真等である。このレベルについては、
著作権に対する配慮が必要であるが、情報セキュリティの面では上記の二つのレベル
の情報とは異なるので、この面に関するクラウドが期待される。
●クラウド利用のメリット
熊本県人吉市の小学校では、朝の登校時に学級担任が児童の欠席者を教室で入力
すると、その日の欠席者全員を校長が把握できて、毎日チェックして対応をした
結果、不登校児童がなくなった。どこからでもクラウドに入力ができて、どこから
でも記録されている情報を見ることができるという特徴を生かしている。
また、総務省が文科省と連携して実施しているフューチャースクールでは、
タブレットPCに児童が書いた成果を授業終了時にクラウドに上げている。これは、
それぞれの児童の記録として残されており、個別指導の際に有効になる。
このようなクラウドのメリットをお互いに共有しながらクラウド化について
検討されることを期待している。
清水先生
東京工業大学 監事(常勤)・名誉教授、(社)日本教育工学振興会(JAPET) 理事、
日本教育工学協会(JAET) 常任理事。
教育工学の権威の一人として知られ、工学的なアプローチからの
教育工学を主とする。専門は、教育工学、電磁波工学、弾性表面波工学。