2012.11.06
国際的な学力評価の動きから教育とICTの関係を考える
ビジネスや生活と結びついた様々な携帯端末の開発、情報の共有とその安全性や
有効活用を意識したクラウド化が進む中で、知識基盤社会をより意識化させる
ソーシャル・メディアと言われているものがいっそう身近になってきている。
それに呼応して子どもたちの周りのメディア環境も大きく変わり、
教育に関しても様々な指摘や取り組みが行われてきた。
例えば、その影の面への指摘や情報ネットワークの世界と効果的に
付き合っていくことと関わって、情報モラルに関する取り組み、
子どもの生活環境・メディア環境の変化と遊び・人間関係の変化の問題に対する
指摘とその取り組みなどが進められてきた。
一方、その活用の必要性や可能性に関しては、教育の情報化ビジョンが
新たに示され(2011年4月)、総務省「フューチャースクール推進事業」、
文部科学省「学びのイノベーション事業」などの取り組みが行われてきている。
これは知識基盤社会を生きていく力、ICT、ソーシャル・メディアの効果的な利用などを
視野に入れた新たな世代の教育に求められる力の育成と、その評価方法の検討を
推進しようとする試みと考えられる。
このような中、1つの動きとして見られることがある。
上記のような状況への対応及びこれからの時代に求められる力を子どもたちに身に
つけさせる方法と関わって、従来から取り組まれてきた「履修原理」に即して
子どもたちの学習機会の保証を考えていくアプローチ(教科等学ぶ場を設定する)
に対して、「修得原理」に即して、結果として子どもたちにどのような力の獲得が
保証できているかを考えようとするアプローチ(学ぶ場については、柔軟に定め、
むしろその結果を評価することに関心を向ける)も強く出てきているということ
である。
この動きを特徴づけることとして、世界的な動きが2つ見られる。
1つは、コンピュータを用いて、子どもの読解、数学、科学に関する学習活動の
達成度を、国際比較調査を通じて測ろうとしていることである。
もう1つは、コンピュータを用いた情報の管理運営や他者とのコミュニケーション
において、子どもたちのコンピュータを用いる能力を測ることである。
前者はよく耳にすると思われるPISAが関心を向けていることであり、後者は
ICILS*が関心を向けていることである。
実際に教育活動によってどのような力がついているのかを測ることを通じて、
その現状把握と教育活動の改善へつなげていく動きがより強く出てきていることが
うかがわれる。
どのような問題でどのような力を測ろうとするのかによって、その結果は当然
変わってくると思われるが、学力評価の動きから、教育とICTの関係を考える
ことに目が離せなくなってきている。
*ICILS(The IEA International Computer and Information Literacy Study)は、
The International Association for the Evaluation of Educational
Achievement (IEA) が推進しているICTスキルの測定に特化した国際的テストの
取組であり、2013年にその実施が予定されている。
小柳先生
奈良教育大学 大学院教育学研究科・教授 教育学博士
1965年5月5日 新潟県新潟市生まれ
広島大学教育学部助手、常磐大学人間科学部専任講師、奈良教育大学教育学部准教授を経て2008年4月から現職
日本教育工学会(理事) 日本教育方法学会(理事)日本教師教育学会(理事)日本教育学会(学会誌編集委員)