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研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

ISEN委員長 山西先生のコラム

2013.01.16

デジタル教科書はどこへ向かう

この9月、デジタル教科書プロジェクトに関する調査で韓国を訪問した。
ご存知のように、韓国では2007年以降、小学校高学年の国語、社会、算数、理科、
英語の主要5科目などの教科でデジタル教科書の開発が進み、132のモデル学校で
実験事業が展開されてきた。

その成果をもって、当初は2015年からすべての学校での導入を図る予定だったが、
ここへきてその実現が難しくなってきたとの声も聞かれるようになってきた。

e-教科書の開発という新たな展開も出てきた。もともと韓国のデジタル教科書は、
学習者用教科書として学習者一人ひとりのタブレットPCに、紙の教科書と
ノートやワークシートなどの機能を統合し、動画、アニメーション、音声等の
マルチメディア技術の支援を得ながら、学習理解の向上を図ろうとするものであった。

研究校の授業を見せてもらい、小学生が複雑なインターフェースをいともたやすく
操作して、図形のシミュレーションを見たりノートで問題を解いたりする姿に、
これがデジタル教科書活用の姿かと驚いたものである。

ここへきて、この学習者用デジタル教科書の全学校導入との政策実現が
微妙になった背景には、コンテンツの充実もさることながら、デジタル教科書として、
著作権問題などの関連法制度の整備が遅れていることがある。

また、児童生徒一人ひとりの学習端末をどのようにするか、膨大な財源を
どうするかなども実現に向けた課題となってきている。

学習端末としてのタブレットPCについても、技術開発で廉価なものが
急速に開発されてきているが、さまざまなOSへの対応や学習用サイズや
インターフェースの統一化など技術的問題も出てきている。

児童生徒一人ひとりの学習端末に関しては、BYOT(Bring Your Own Technology)
との考えで、すべて公的予算で準備するのではなく、個人所有を進めるという
動きもある。
しかし、自分のPCを家庭でも学校でも活用するとなると、学習履歴やプライバシーに
関わる個人情報の新たな管理問題が出てくるだろう。

このような中、韓国では2011年からe-教科書の開発が始まった。
筆者の理解では、このe-教科書は日本での教師用デジタル教科書に近い。
すでに、国語、数学、英語に関して、小学校、中学校、高等学校の
111の教科書に対応した61のコンテンツが開発され、全国の小中高等学校に
無償で配布したという。

日本では教師用のデジタル教科書が最初に開発され、
平成23年度の調査結果では平成24年3月時点で22.6%の学校で整備され、
導入が増加傾向にあるという。

しかし、韓国のようにトップダウンで全国に無償で配布するのと異なり、
まだまだ全国的な導入と活用には至っていない。
学習者用のデジタル教科書の研究開発も昨年来進められてきているが、
こちらの方はまだまだその成果が見えてこないし、普及の段階には程遠い。

韓国が学習者用デジタル教科書の全面活用で問題提起をしたように、
同じ問題は日本でも起こる。著作権や開発コスト、端末と財政問題などなど
クリアすべき問題も多い。

我が国の教師の教育技術は世界的にも大変高いと言われている。
教師用デジタル教科書の機能について、多機能化を考えるのではなく、
教師の指導技術を生かしたよりシンプルで安価なものが必要だ。

教科書というより資料や学習理解の支援のための補助教材としての内容充実が
求められる。多くの教科で開発され、学校現場に日常的に活用されることを
期待したい。

山西先生

富山大学 名誉教授、上越教育大学監事
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長
日本教育工学協会(JAET)評議員
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長
インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた
教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。
専門は、教育工学、情報教育。

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