2013.08.01
児童生徒1人1台の情報端末。7つの課題と対応策を考える
総務省のフューチャースクール推進事業以降、日本国内においても児童生徒が
1人1台の情報端末を持つことが実践段階に入った。
佐賀県、大阪市、荒川区など自治体レベルでの導入も進められている。
筆者自身、学びのイノベーション事業も含め、いくつかの学校で
1人1台環境の活用を観察してきた。
「先進校」として数々の成果を目の当たりにしてきた反面、
「普及」あるいは「一般化」を考えると、十分な教育効果を発揮するには
課題が山積みなのが実感でもある。
本稿では、現時点で1人1台環境導入にあたっての7つの課題点と、
当面考え得る対応策・方向性について試案を述べる。
■ (1)テクノロジーの壁
画面の大きさやバッテリ持続時間、無線の安定性、タッチパネルの書き味、
堅牢性など、端末自体が急速に進化している最中である。
毎時間の授業で教科書・ノートを完全に置き換えて常時使える状態ではない。
当面は、紙と併用しながら、効果的に使える場面でいつでも使いやすいような
整備が求められる。
■ (2)コストの壁
端末をすべての児童生徒に配布するには、更新や保守も含めると
膨大なコストがかかる。それ以前に校内の無線LANや電子黒板など、
端末以外の整備が遅れており、自治体格差も広がっている。
環境整備を優先し、端末は家庭で購入する(BYOD:Bring Your Own Device)か、
PC教室の置き換え程度から始める。
■ (3)サポートの壁
フューチャースクール推進事業では、常駐のICT支援員が果たした役割は
極めて大きかった。技術支援だけでなく授業支援も含めて、
十分なスキルと知識を持った専門の人材が求められる。
短期雇用ではなく、専門職として学校のICT支援を行う人材を
確保していく必要があり、資格・予算などを含めた制度づくりが急務である。
■ (4)学校文化の壁
現在の学校は学年別のクラス編成、時間割といった一斉に多人数を教えることを
前提に組織されている。
一方で1人1台の環境は、むしろ個の学びに寄り添えることに利点がある。
一斉授業で日常的に利用するには、テクノロジーの壁もあることから、
むしろ朝学習、あるいは家庭での利用など、授業時間外で日常利用することで、
授業にもスムーズに取り入れられる可能性がある。
■ (5)カリキュラムの壁
1人1台環境では、児童生徒個別の興味関心を追究する学習を支援しやすいが、
それを実現するための時間やリソースが不十分である。
総合的な学習の時間での活用に取り組み、探究活動の高度化を図るとともに、
高校段階では授業の遠隔履修など、
多様なカリキュラムを実現する道具として活用する。
■ (6)授業観の壁
これまでの実物投影機や電子黒板は、授業スタイルを変えずに
指導の効率・効果を高められた。
しかし、伝統的な一斉指導を中心とするのであれば、1人1台は必要ではない。
思考を中心とした高次な学力を育成する活動を中心とした授業での協働利用と、
基礎基本の習熟を目指す、授業外での個別利用との組み合わせを模索する。
■ (7)教材・アプリの壁<
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現状では、画面共有やドリルなど、単品・単機能のアプリは登場してきているが、
子どもたちの学習成果を一括して蓄積・共有するプラットホームが
十分に用意されていない。
LMS(Learning Management System)やデジタルポートフォリオを構築し、
児童生徒の課題提出や、学習の記録、諸連絡など、
日常のインフラとして情報端末を機能させるようにする必要がある。
以上の7点の壁に限らず、多様な論点、課題が考えられる。
先進校の取り組みに学びながらも、普及・日常化につながる
活用モデルの提案が急がれる。