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研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

ISEN委員長 山西先生のコラム

2013.09.30

【教育の情報化が向かう先は?】先端技術で教育改革を進める韓国

 前回は教育の情報化に先進的に取り組んできた英国について紹介した。
英国は、シンガポールや韓国で行われているような、最先端のハードやソフトを
導入した先駆的な試みをしているわけではない。しかし、すべての学校の教室に
電子黒板やプロジェクターを設置する学習環境の公的整備や、校長など管理職が
教育の情報化の意義を理解し、学校が一丸となって教育の情報化を推進するため
の管理職研修など、教育の情報化を進めるための制度設計とその実現では
最も進んでいる国である。

 さて、今回はデジタル教科書の開発をはじめ、先端技術を積極的に取り入れて
教育改革を進めている韓国についてみてみよう。

 何よりも注目されるのは、OECD PISA 2009で行われたデジタル読解力調査
において、韓国が参加19カ国中で1位を記録したことである。
しかも、国際平均より69点高く、2位のニュージーランドに31点の差をつけ、
圧倒的1位だ。ちなみに日本は4位になったものの、1位韓国の平均点を49点も
下回った。従来の読解力調査ではなく、電子媒体を使ってのリテラシー調査だ。
情報化の進展の中で、デジタルネイティブな学習者がまさにデジタル機器や
デジタル教科書を使いこなす、次代に対応した教育の情報化戦略が着実に
進められている成果の現れだ。

 韓国における教育の情報化の変遷を顧みれば、1996-2000年のICTインフラ整備、
2001-2005年のICTを活用した教授・学習活動の推進あたりまでは我が国と
そう変わりはない。2006-2010年、ユビキタス学習社会の実現とグローバル人材
養成強化策が掲げられたあたりから、新技術の教育的活用を図るためのさまざまな
プロジェクトがスタートし、韓国が急速に教育の情報化先進国に躍り出た。

 その中でも2008年からスタートしたデジタル教科書開発は、130を超える
モデル校で実験的に試みられ、国語・算数・理科・社会・英語・音楽など多くの
教科で開発された。ここでのデジタル教科書は、日本でいう教師用や学習者用
という区別はなく、学習者用が基本で、それを教師が指導にも活用するといった
ものであった。デジタル教科書開発の動きは、継続的に進められると同時に、
日本の指導者用デジタル教科書に近い形のe-教科書も2011年から開発が進み、
現在、国語、算数・数学、英語では小学校から高校まで開発され日常的に
活用されてきている。

 教育における教師と学生の役割の変化、ICTを活かした学習環境による
教授学習方法の開発、個の能力に応じた教育体制の開発など、教育パラダイムの
変化に応じた教育改革を推進するために、2011年からは新たに、教育体制の革新
を目指したスマート教育推進戦略が掲げられた。ここで、スマートとは
最近よく聞くスマートとは異なり、次のような内容から構成される造語である。
SMARTのSはSelf-directed(主体的で)、MはMotivated(動機付けの高い)、
AはAdaptive(個々に適応した)、RはResource enriched(豊かな教材を持った)、
TはTechnology embedded(最新の情報通信技術を活かした)。

 これら5つの内容はまさしく従来型の教授学習方法から未来型の教授学習方法
へのパラダイムシフトを志向した教育戦略である。このスマート教育のもと、
21世紀型スキルを持った人材養成に、国を上げての教育の情報化が推進されて
きている。我が国でも教育の情報化ビジョンが策定され、21世紀にふさわしい
学びと学校の創造を目指して、実験プロジェクトが開始されてきているが、
韓国のスマート教育と競う、より一層の充実を期待したい。

山西先生

富山大学 名誉教授、上越教育大学監事
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長
日本教育工学協会(JAET)評議員
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長
インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた
教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。
専門は、教育工学、情報教育。

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