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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2014.04.11

スマホとSNS時代の情報モラル ~子供たちの現状とネット炎上~

 (1) 初めに 

 近年の情報社会の進展は目覚ましい。TVもデジタル化され、各種情報サービスが
始まり、携帯電話(以下、ケータイ)は、2000年から固定電話の台数を上回り、
2007年には1億台を突破。国民一人ひとりがほぼ1台以上を所有する時代となった。

  そして「通話」が主であったケータイは、電子メールやWebサイト閲覧などの
ネットサービスが提供され、ここ数年のスマートフォン(以降:スマホ)の普及により、
通話もできる手のひらサイズのPCとして、電車やバスなどの公共交通機関で、
多くの乗客がスマホを利用している光景を日常的に見かける。
また、2013年内には高校生の8割以上がスマホを保有するとの予測もある。

 (2) ネット普及による子供の変容 

 今回、10年ぶりに改訂された『学習指導要領』では、冒頭の「総則」において
国際化や情報化という時代のトレンドに加え「情報モラル教育の充実」が
大きく取り上げられている。

  10年ごとに改訂される学習指導要領は、その時代や社会のニーズを反映しながら
改訂されてきた。10年前の前回の改訂では「情報化社会」の文言はあるものの
「情報モラル」という言葉は全く見あたらない。

  しかし、2007年あたりから、子供たちのケータイの所持率も急速に増加し、
利用の仕方も通話に加え、メールやWeb閲覧が中心と、大きく変化し始めた。

  当時、同じ学校に勤務していた養護教諭から「どうも早朝からの保健室への
来室生徒が増えている」との指摘があり「朝ご飯の欠食じゃないか」と、
安易に返した記憶がある。しかし「どうも深夜までのメール利用が原因では」
との再度相談があり、ケータイとメールに関して実態調査を実施した。

 結果、想定以上のケータイの所持率とメール利用に驚いた覚えがある。
そして、まだ先駆的だったが、学年ごとに情報モラル教育を行い、
PTAも巻き込んで「ケータイを考える」というフォーラムまで実施した。

 ちょうど「学校裏サイト」が大きな話題になった頃で、メールによる「依存症」、
「出会い系サイト」、「プロフ」などが社会問題化しつつあった。
しかし、わずか数年後の近年「学校裏サイト」は自分の意見が発信できる
ソーシャル・ネットワーク・サービス(以下、SNS)にとって代わり、
米国で誕生した世界規模の「ツイッター」や「フェイスブック」、
日本生まれの「ミクシィ」など、多くの課題はありながらも、先の大震災では
安否確認などとして大活躍したことは記憶に新しい。

 また、出会い系サイトについては「青少年インターネット環境整備法」の施行
により、18歳未満の利用では原則フィルタリング適用が義務付けられ、
被害に遭う児童生徒は激減した。

 近年はそれらに加え、SNS機能を持つゲーム系サイトによる課題も多く、
提供する側も「ソーシャルゲーム協会」を組織し、自主規制をいち早く
打ち出す対応がなされ、課金などの課題は大きく解決に向かった。

 (3) ケータイとネットに関する実態 

 ケータイの問題が女子に発生しやすいとの指摘が以前からある。
多くの実態調査で、男女で所持率に差があることがわかってきた。中学時代から
高校1年生まで、女子は男子と比べて、どの調査でも2割以上の所持率の差がある。

 そして、メールの利用も女子が多いとの調査結果が大半で、メールの返信時間に
ついては、10分以内の返信が約70%(朝日新聞のネット調査アスパラアンケート参照)
にもなり、就寝が遅くなる大きな要因となっている。

 (4) メール利用から見えること 

 大阪府寝屋川市では、いち早く、この問題に取り組み、当時、生徒指導担当だった
竹内和雄氏(兵庫県立大学 准教授)は、全小中学校で2008年に実態調査を実施。

 1日のメール利用が30通以上、30通未満、メールを利用しない生徒と、
3つのカテゴリで相関を調べた。この結果、一日のメール数が30通未満の生徒は、
利用しない生徒と大きな差異が見られないが、メール利用が依存症に近い
30通以上の生徒と、それ以外では明らかな差がある。

 最近の性教育の研究で、子供たちの「性情報」の多くが、ネットからとの指摘
があるが、同アンケートでは女子中学生の半数が会ったことのない人と
メールの経験があると回答している。性に対する女子生徒の危機意識が
低下している現状があるのではないかと、とても心配である。

 さらに、大事なことは「インターネット」は「インター=国際的」である。
ネットの世界に「大都市・都市・地方」の差はない。
前述した事例は、程度の差はあれ、東京も大阪も熊本市も、熊本の山間部も、
沿岸部も大きな差はない。むしろ離島ほどネット漬けという調査もある。

 ネットに地方という概念がないことは、大きなビジネスチャンスではあるが、
ネットではニューヨークも東京も離島も変わらないということを
肝に銘ずる必要がある。

 (5) スマホとSNSとネット問題 

 近年、目まぐるしく変化しているケータイとネットの世界だが、中高校生にも
その影響は大きい。ほんの数年前には、一部の生徒だけが2台目のケータイ
として所持していたスマホは、今は1台目から所持する生徒がほとんどだ。

 ファーストフード店やコンビニ店内で、WifiというワイヤレスLANの電波が
提供されているが、18才未満の法規制によるフィルタリングも、Wifi環境下では
効かない問題点が指摘されている。その解消のため、前述のネット環境整備法が
内閣府を中心に見直し作業がされている。

 スマホのアプリの中で、中高生の利用度が高いのがSNSと言われるアプリで、
小学校高学年から大学生まで急速に利用が普及している。
その中でも特に通信系アプリでは、グループと言う機能の利用で、気に入らない
友だちを仲間から外すという「仲間外し」の問題や、匿名のサイトでの
誹謗中傷の書き込みによる「ネットいじめ」など、本年は特に問題となっている。

 一方、自己表現の発信の場として、従来のブログに加え、SNSの利用が多いのも
最近の特徴である。特に今年の夏は、大学生や高校生を中心にネット炎上事件が
多発した。鉄道の線路に降りてみたり、冷凍庫や冷蔵庫に入って写真を写し、
それを不特定多数が閲覧するSNSのタイムラインに投稿したりするなどの行為は、
社会から大きな非難を受けた。

 反社会的行為としてバッシングを受け、当事者の名前や学校、住所、経歴などの
個人情報が明かされた。そして、それらの情報は一度ネット上に投稿した内容が
ほぼ永久にネットに存在する。冷凍庫事件の該当者は店が閉店したことにより
損害賠償請求を受け、22名もの仲間は解雇された。犯罪ではないので退学には
なっていないが、同僚や同級生の見る目は厳しく、仲間も含めて就活の妨げに
なるとの指摘もある。

 実に大きな負の財産を生涯背負っていくことになる。ネット利用、特に情報発信
に関して、あまりにも未熟と言わざるを得ない。ネットの特性をもう少し
理解していればとつくづく思う。また、食材を入れる冷蔵庫には入ってはいけない
という、根本的な規範意識の熟成はそれ以上に大事だとも改めて思った。

 (6) 保護者の在り方とネットモラル 

 ベネッセ教育研究開発センターが発表した中学生対象のアンケート調査では、
「保護者の目を意識する生徒ほど使い方に気を配る」とのタイトルで、
使い方のルールを「決めている」家庭は所有者の約4割であることや、
「親は自分のケータイ利用の状況をある程度わかっていると思う」と
答えた生徒ほど利用マナーが良く、自制した使い方をしている傾向がある
との分析結果がある。

 親の在り方は、子供の規範意識と密接な相関関係があるといえる。
還元すれば子供のネット利用に関して、保護者の関心や家庭教育は、
大きな影響を与え、親の関心が高いほど、子供は適正に利用する、
規範意識が高い傾向にあると言える。

 (7) ネット・ケータイの対応ポイント 

 18才未満が利用するケータイには、フィルタリングを適用するのは法律で
規定されている。しかし、それよりも大事なのは、保護者、教師による
「人間のフィルタリング」である。

 ・子供の変化とSOSに敏感になる
 (急にケータイと距離をおくようになる、呼び出し音にビクビクする、
 ケータイのことを話すと怒るなど)

 これらの現象が表れた時は、明らかに何らかの変化が起こっていると考えられる。
そして、大事なことはその後のアドバイスである。

 ・トラブルが起こった場合の対処方法
 (加害者にならないように仕返しをさせない、困ったら専門機関に相談する)
 ・家庭のルール作りが話し合える親子関係(これが特に重要)

 大人のフィルタリングと、日頃からの良好な親子関係が、
家庭のルール作りにも大切だ。

<家庭でのルール作りの例>
 ・自宅内では居間で使う
 ・食事中や懇談中、深夜には使用しない
 ・一定の金額以上は使わない
 ・学校での使用は、学校のルールに従う
 ・他人を傷つけるような使い方をしない
 ・知らない者からのメールが来た場合は、速やかに親に報告する
 ・ルール違反や日常の生活に支障が生じている場合は利用を停止する など

 警察庁で検討された審議会「バーチャル社会のもたらす弊害から
子どもを守る研究会」の提言だが、最初の提言は米国のFBIも全米の
保護者に同じ提言をしている。2000年にはすでに小児科医の学会で
同じことが言及されているのも特筆すべきことある。

<ルール作りのポイント>
 (1)親子で話し合ってルールを作ること
 (2)子供が守れるルールを作ること
 (3)ルール違反が明確なルールを作ること
 (4)ルールを気分で運用しないこと
 (5)ルール違反にどうすればいいか子供と考えること など

 「ケータイが欲しい」や「友達が持っているから」とせがまれて、
ケータイを買い与える例や、ご褒美やプレゼントとしての購入もよく聞く。
やはり「なぜ必要で、どう使い、どう管理するのか」、
これらも親子でしっかり議論して欲しいものである。

 (8) 最後に 

 よく、ネットやケータイに詳しくないからと、子供のネット利用について
関心が薄い保護者や教師がいる。しかし、親や教師はネットの
専門家である必要はない。子供と一緒に、場合によっては子供に
教わりながらネットのことを勉強するのもよいだろう。

 子供が病気になった際には、誰でも適切な診療科を選択する知識があるが、
風邪なら耳鼻科か内科、骨折なら整形外科を受診する程度に、
ネット利用に関しても、最低限、診療科を選択する程度の知識は必要である。

 しかし、トラブルの際に「親で対応可能なレベル」なのか、
「友人との人間関係が悪化しそうな場合」なのか、
「学校との連携が必要」なのか、見極めは親や教師として欲しい。
「重篤なレベルの問題」は、迷わずに警察に相談するのが賢明である。

 子供たちは将来、社会生活を営む際に、仕事をする上で、
必ずスマホやネットを利用する。その時、いかに賢いユーザーに
育っているかは我々大人の責任でもある。

 しかし、残念ながら栃木県PTA連合会の標語募集で小学生の部の
第1位に「ママ聞いて、ケータイするより私の話」というショッキングな
標語が選ばれたことがある。

 子供たちを賢いネットユーザーに育てるための第一歩として、
私たち大人や保護者がネットやケータイとの在り方に
しっかりと関心を持ち、真摯に向き合うことがまずは第一歩である。

桑崎先生

安心ネットづくり促進協議会特別会員、熊本市立総合ビジネス専門学校 教頭。熊本市出身。東京理科大学理学部卒業。専門は数学教育。他に情報(モラル)教育、ICTの教育利用など。東京都私立高等学校講師、東京都北区立中学校教諭を経て熊本県内の公立中学校教諭、熊本市教育委員会教育センター指導主事、熊本県内の公立中学校教頭を歴任し現職。教諭時代は東京工業大学教育工学開発センターにて研究生として情報教育、ICTの教育利用について研究し、その後、安心ネットづくり促進協議会(青少年の安心・安全なインターネット等の利用に向けた民間団体)の特別会員やEMA(モバイルコンテンツ審査運用監視機構)の賛助会員として情報モラル教育の普及啓発に向け、各種セミナーでの講師や著書等の執筆を行う。内閣府「青少年インターネット環境整備に関する広報企画検討会議」委員、文部科学省「教育の情報化総合モデル支援事業」企画評価委員他に従事し、現在、日本教育工学協会(JAET)理事、日本教育工学会企画委員、九州ICT教育支援協議会会長、熊本県小・中学校情報教育研究会副会長を務めている。

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