2014.12.08
新しい世界を構想し、創造する力の育成
1878年のパリ万博で電話や蓄音機、自動車が展示されました。
スティーブ・ジョブズが、数センチ四方のタッチパネルとスタイラスペンを描いて、
こんな電話が欲しいと言ったのは、今から28年ほど前のことです。
20世紀とは、100年も前に構想されたモノやコトを
やっと実現してきた世紀だったと言えるでしょう。
リンカーン・ステファンズは『How to Get Ideas』(1936)の中で
「すでに成し遂げられてしまったことは、一つもない。世界中のすべてのものは、
これから成し遂げられ、新しいものに負かされるのを待っている。
これまで最高の絵画は描かれていないし、
最高にすばらしい物語も書かれてはいない。
完璧な鉄道も良い政府も、最も信頼できる法律もできてはいない」と言っています。
すばらしいアイデアとは、どのようにして生まれてくるのでしょうか。
現在の進んだICT技術を活用することで、これまでの時間や空間の限界を超えた
学びを実現することが可能となりました。このことは教育方法の無限の可能性を
我々に期待させてくれます。
今活用している技術は、いつ誰が考案し、作られたものなのでしょう。
その作者たちは、どのような教育を受け、どのような学びを経て、
これらを構想し、開発してきたのでしょうか。
我々は、子供たちに知識や学び方を教えています。しかし、その生かし方を
十分に伝え、体験させ、定着させているでしょうか。
100年後にどのような社会を作り、どのような幸せを実現する力を
育てているのでしょうか。
それを効果的に学ぶには、どのような学びの方法や場が必要なのでしょうか。
解決するべき課題は実社会の中に潜んでいます。そして、その答えもヒントも
同様に実社会の中にあります。子供たちは、その目でしっかり社会を見つめ、
日々の学びを活用し、試してみて、手応えを実感していくことが重要です。
社会を生き抜く力の源は、好奇心と疑問力にあります。
社会のいろいろな出来事に関心を持つ好奇心、「なぜだろう?」と気付く疑問力、
「どうしてですか?」と尋ねる質問力、「こうなっていればいいのに!」と
思い付く発想力・洞察力、「どうしてこうなっていないのかな?」、
「障壁は何か?」を調べて考える情報収集力・分析力、
「どうやったら解決できるかな?」と組み立てる構想力、
「こうやってみよう!」と考えをまとめる企画力、
対象をはっきりさせて呼びかける提案力、皆で取り組み推進する実践力、
そして、周りの皆が一緒に取り組みたいと思う自分自身の人間的魅力が必要です。
これまでの教科で学んだコトを総動員して、地域の中で取り組む活動が
求められます。身近な地域は世界と繋がっていてその一部であり、
身近な出来事に注意を払うことが、これからの世界を考える第一歩なのです。
それは、すべての学びは社会の課題を解決するためにあるからです。
この活動に参加する地域市民が相互に刺激し合い、啓発し合うことが重要です。
地域の市民と活動する中で、子供たち自身がその存在価値や将来の仕事について、
主体的に実感を持って考えることができるようになるでしょう。これこそが、
社会のいろいろな分野のクリエイティブ・クラスの育成につながります。
将来の夢や目標が見えてきて、小さな一歩を歩み始めると、
あるもくろみが生まれます。そこで、情報に関する以下7つの能力が必要になります。
(1)あるもくろみを実現するために、求める情報の在りかを特定して、
目的の情報の入手する情報受信能力
(2)入手した情報を適切に処理する情報処理能力
(3)得られた結果を生かす情報活用能力
(4)新しい情報を創り出す情報生成能力
(5)作成した情報をターゲットに向かって届ける情報発信能力
(6)お互いに情報をやりとりして、意思疎通を図る情報交換
(コミュニケーション)能力
(7)お互いの合意点・相違点を明らかにし、実社会で行動する情報協働
(コラボレーション)能力
教科や時間に細切れにされていない、この総合的な一連のプロセスに、
ICTの活用を展開し、位置付けを直さなければなりません。
アイデアは発明ではなく新しい結び付きです。課題を発見し、解決策を見いだすには
あらゆる角度から見る水平思考が必要であり、解決方法を組み立て
実現するには、深く掘り下げる垂直思考が求められます。
混迷する社会で道を切り開き生き抜く、感性を磨き創造性をはぐくむために、
世代や業界、分野を超えた地域社会の縦・横・斜めの人間同士で、
生身の協働による学びの場をデザインすることが今求められています。
武田先生
1958年札幌生まれ。札幌市立大学デザイン学部デザイン学科メディア・デザイン コース 准教授。北海道教育大学大学院教育学研究科修了。北星学園女子短期大学専任講師・助教授、北星学園大学短期大学部教授を経て2008年から現職。北海道学校・家庭・地域の連携による教育活動促進事業推進委員会会長。日本教育工学協会(JAET)理事。教育とコンピュータ利用研究会(ACE)副会長・北海道支部長。専攻は、メディア教育、教育工学、企画デザイン。