2015.01.29
道徳教育の一環として情報モラルを扱う時には
現在、学校では道徳教育を一層充実させることが求められている。
それゆえ、今後、道徳教育の一環として
情報モラルを取り扱っていくケースが増えると考えられる。
道徳教育と情報モラル教育は、オーバーラップする部分が大きいが、
異なっている点もある。道徳教育の一環として情報モラルを扱う場合、
両者が異なっている部分は取り上げられにくいこととなり、
情報モラル教育としては偏りが生じてしまう懸念があるように思われる。
両者が異なっている部分としては、以下の3点が挙げられる。
これらの取り扱いが手薄ないし不適切にならないよう、
注意が必要になると考えられる。
第1の点:情報安全教育
情報モラル教育は、3つの領域に大別できる。
(a)ネットいじめや不適切な投稿などの加害者にしない倫理面での教育
(b)詐欺や性犯罪などの被害者にしない安全面での教育
(c)依存的利用などを避け、節度のある使い方を促すための衛生面での教育
この中で、道徳教育は倫理面と衛生面の範囲は扱うが、
安全面(情報安全教育の部分)は、通常対象に含まないと考えられる。
第2の点:加害行為に対するとがめ
情報モラル教育では、問題行動をすれば、その行動をとがめられることを強調する。
たとえば、以下のような例がある
(a)インターネットは匿名の世界ではなく、
問題のある書き込みをした人物が特定できる
(b)気軽に行った書き込みでも犯罪になり処罰されうる
(c)不適切な投稿は、それを非難する多数の書き込みによって炎上が起こり、
将来にわたってもその記録は消えない
これは、インターネットでは深刻な問題を引き起こす加害行為が
簡単にできるので、とにかくその行為を止めなければならないという
事情があるからだと思われる。
しかし、このようにとがめられることを強調して、
問題行為をさせないようにするアプローチは、
道徳教育のあり方にはそぐわない面があると考えられる。
第3の点:道徳的価値と対立するインターネットの性質
情報モラル教育には、当然ながら、インターネットの性質に関する内容が含まれる。
この中には、道徳教育で学習内容となる道徳的価値と対立しうるものがある。
たとえば、千葉大学の阿部学氏は、友人のブログが匿名による
多数の書き込みで炎上したときに、その友人を擁護する書き込みを
顕名で行う例を挙げている(注)。
これは、困った友人を助ける行為であり、
また顕名を用いて責任の所在を自覚した行為でもある。
それゆえ、道徳教育としては道徳的価値と一致した望ましいものと
言えるかもしれない。
しかし情報モラル教育では、この行為は一層の炎上を招く行為となる。
道徳教育の一環として情報モラルを扱う場合、
少なくとも以上の点の取り扱いに注意が必要だと考えられる。
道徳教育と情報モラル教育には別々の体系があり、
双方の体系を崩さないように指導計画を組むことが求められるように思われる。
注:
阿部 学 (2013)情報モラル教育としての「道徳」授業批判 ―
「資料」の解釈について― 授業実践開発研究, 6, 35-43.
坂元先生
お茶の水女子大学 大学院人間文化創成科学研究科 人間科学系 教授。
文部科学省「情報活用能力調査に関する協力者会議」委員、
秋田県「インターネットセーフティ推進委員会」委員長、
東京都「推奨携帯電話端末等検討委員会」副会長、
特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメント レーティング機構(CERO)理事、
「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」座長、など。
メディアが人間の行動や発達に及ぼす影響に関する研究に従事している。
専攻は、社会心理学、情報教育。