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研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

学校ICT 専門家・研究者のコラム

2015.03.05

SNSには罪がない

 私は2013年度に、韓国のデジタル教科書モデル学校の小・中学生を対象とした
ICT機器の利用実態調査を行った。その結果で印象に残ったことがある。
それは、ICT活用授業を通して教師との関係がよくなったと答えた児童の多くが、
その理由として「教師とオンライン上で1対1のコミュニケーションができた」
と回答したことである。一方で、教師との関係があまりよくならなかったと
答えた児童の多くは「教師とコミュニケーションができなかった」と回答した。

 韓国ではC社の学校教育用SNSがあるが、このSNSは当初、国営TVニュースなどで
大きな話題になった。それは、児童・生徒が自分の名前やIDなどを知らせず、
教師に文章などを送ることができる「秘密相談」があったからである。
この機能を使えば、児童・生徒は教師に匿名でコミュニケーションが図れるので、
自分の悩みだけではなく、いじめなども教師に伝えやすいのだ。
これは「教師と児童・生徒によるオンラインでの1対1のコミュニケーションの
重要性」と「コミュニケーションを気軽にとれるICTの長所」を表している。

 ところで最近、教員がLINE(ライン)で教え子と連絡を取り合い、わいせつな
行為をしたという日本のニュースを見た。この影響で、日本では教師と児童・生徒
との1対1のオンライン上のコミュニケーションが妨げられるのではないか、そして
ICT活用教育が学校の中に取り入れにくい状況になっていくのではないかと心配に
なった。その後、埼玉県教育委員会では、県立学校の全教員に対して、生徒との
電話やメール、無料通話・メールアプリによる私的な連絡を原則禁止、
神奈川県教育委員会もSNSを含む携帯の使用指針策定を検討、さらには
LINEのトラブルで学校中退者も続出するという記事が立て続けに取り上げられた。

 私はICT活用学校教育が定着・発展するためには、インフラとコンテンツ以上に、
ICTをコミュニケーションツールとして学校で活用される環境を整えることが重要
だと考えている。インフラとコンテンツを整えたとしても教師と児童・生徒、
児童・生徒同士のオンラインコミュニケーションを促さなければ、
そのICT活用教育によって児童・生徒は、教師やほかのクラスメートとの関係が
「あまりよくならない」と感じる可能性がある。
そして、授業としては個別中心の一斉型の講義式になりやすいと考えている。

 韓国教育部の政策研究として2012年に行われた「青少年のSNS活用実態分析
によるスマート教育適用方法に関する研究」で示された結果の一部をご紹介する。

(1)教師が学習以外の目的で児童・生徒とSNSコミュニケーションを行うことで、
  児童・生徒の理解とオフラインコミュニケーションの活性化が促された。
(2)クラス単位でSNSを活用することで、児童・生徒にとって、教師と
  クラスメートたちをより理解でき、疎外されるクラスメートがなくなった。
(3)学校でSNSを学習と学習以外の目的で活用するには、個人情報とインターネット
  依存に注意すべき。教師はその危険性を認識し、取り扱わなくてはならない。
(4)教師は一般的な解放型SNSは学習を妨げる認識があり、閉鎖型の教育用SNSが
  望ましいという認識がある。

 最後に児童・生徒中心のSNS活用の可能性についてご紹介する。
韓国のC社のSNSでは、誰でもグループを作ることができ、教師と児童・生徒
そして保護者たちの多数のメンバーが参加して、活発なグループトークをしている
こともある。それぞれのグループにはテーマがあり、ダイエット、英語、ペット、
数学、進路、いじめなどさまざまだ。

 いくつかのグループトークを見ていて気が付いたことをご紹介する。
それは「児童・生徒中心」で「まじめ」にコミュニケーションが行われている
ことである。質問する方も、質問に応じる方もほとんど児童・生徒であり、
その内容がまじめなのだ。もちろん、たまに不要な書き込みをしたり、
関係のない広告やわいせつな画像を掲示する場面もあったが、
児童・生徒はそれに反応して取り乱すことなく、メンバー全体でそのグループを
大事にする雰囲気が感じ取れた。大人も参加する場面もあるが、大人はその
コミュニケーションの流れをリードするのではなく、児童・生徒と同じような
立ち位置でグループに参加していた。
たとえば、いじめがテーマのグループでは、学校暴力に警察署の専門員が
助言する場面でも、それほど重みが見られなかった。
児童・生徒は心からそのキーワードに関して興味があり、話したい、
あるいは情報を共有したいので、その空間を大切にするのだと思われる。

 そのほか、数学や進路がテーマのグループに書き込まれた児童・生徒の質問と
悩み、そしてコメントなどがまとめられれば、数学の教師と進路指導の教師など
にとっても、とてもよい情報になると考えられる。
これは教育用ビックデータ分析であり、今年の私の個人研究課題でもある。
このように、SNSの教育的利用の可能性は大きい。SNSは、オフラインの
学校教育を補うだけではなく、学校教育では十分に行えないことでも
効率的・効果的に成し遂げられることがあると考えられる。

Mr. Cho, Kyubok

韓国教育学術情報院政策研究部の研究員。広島大学大学院教育学研究科修了。
ICT機器とデジタルコンテンツを活用した教授学習のプロセスと実態を研究しており、最近はスマートメディア活用授業の実態、SNSのオンラインコミュニケーションによるコミュニティ形成の特徴、韓国と日本のICT活用授業実践記録の分析に関する研究を進めている。

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