2016.02.26
子供たちに必要な能力を育むために(1)
◯ 便利になった世界
人類は、生活を向上させることを望み不断の努力を積み重ねてきました。
そして、「こんなことができるといいな」と便利さを追い求めることで、
科学・技術を発展させてきました。便利さを探求してきた顕著な例が、
インターネットなどの通信技術とそれを利用するパソコンやスマートフォン
などの情報機器の発達です。
これらにより、ほんの数年前まで夢のような話だったことが次々に
実現されています。これらのめざましい進歩と普及により、
私たちは、世界の人々と同じタイミングで多くのことを共有するようになり、
今まで以上に世界を身近に感じることができるようになりました。
◯ 変化に追いつかない現状
これらの変化に伴って、社会の仕組みや私たちの生活様式にも急激な変化が
もたらされています。当初は予測できなかった新たな問題や課題も
顕在化しています。そのなかには、あまりにも早すぎる物理的な変化に
人間が追いついていないことが原因となっているものもあります。
その結果、世の中の決まりや仕組みが新たな問題や課題の解決に
対応しきれない事態が少なからず起こっています。
◯ 技術の進歩の光と影と使用する人の責任と思いやり
人類は技術進歩とともに社会の仕組みや生活様式を変化させてきました。
このことは、現代社会を支えている「自動車社会」の発達の歴史
(自動車の発明から普及、技術進歩やそれによる社会変化の状況など)を
通して見ることができます。自動車は人類に多大なる恩恵を与えてきました。
しかし一方で、環境問題や交通事故に代表される負の側面も生じたため、
自動車の環境性能や安全性能を高める事はもちろん、法律や規則を作り、
時代に合わせて改正しながら、自動車を直接運転しない幼い頃から
交通安全教育を行うなど社会全体として対応してきています。
この社会においては、運転ルールや運転状況に従って適切に判断できる能力や
正確で安全に運転できる能力を有することと、それらを行う責任が
求められています。そして、この社会のすべての人々が安心して
暮らせるようにするためには、歩行者や運転者に関わらず相手の立場を理解し
自他への思いやりの心が求められています。
これと同様に、インターネットなどの通信技術とスマホなどの情報機器の
技術の進歩によって実現されることの多くは、人類に多大なる恩恵を与える
光の部分です。しかし、一方で個人情報漏えいやサイバー犯罪、ネット依存、
ネットいじめなどの影の部分も存在し、社会全体として対応していかなければ
ならない状況が生じていることも事実です。
ですから、ネット社会を安心安全な社会にしていくためにも、
ルールを守る責任、そして情報モラルや自他への思いやりの心が必要となります。
◯ インターネット関連技術はなぜこのような早さで受け入れられたのか
影の部分があるにせよ、このように人々の間に急速に広まっているのは
どうしてでしょうか。要因の一つには、これらを使うことで誰もが自らの意志で
世界中から多くの情報を入手でき、自由に発信することが可能となったこと
があると思います。今までは時間的、物理的、機能的、法制度的な
何らかの制約により、情報の交換には制限がありました。
ところがインターネット関連技術の進歩や普及により、人々は望むときに
世界中の人々の声を聞くことができ、自分の声を届けることができるように
なったわけです。つまり、情報に関して人々は、世界中に広がる広大な
情報空間を飛び回るための自由の翼を手に入れたのです。
このように、誰もが世界の人々と時間や空間を超えて繋がることが
できるようになったことが大きな要因だったのだと思います。
次に、インターネットとパソコンやスマホなどの情報機器は、汎用性の高い
道具や技術であることが挙げられます。言い換えると、道具や技術が
ある一定の使い方に特化している場合と違って、使う人によって
使い方はいくらでもあるということです。
ですから、誰もがその恩恵を享受できる可能性があるということです。
それに加えて技術的にも価格面からも利用・入手がしやすくなったことも
大きな要因として挙げられます。世界中で誰もが自由に使える環境が
整いつつあります。さらに、新しい通信機器の利用については、
大人も子供もスタートラインは同じですが、子供たちは多くの時間を
機器の使用に費やすことが可能です。だから、子供たちが主役となった文化が
先に形成されやすいことも特筆すべき要因であると思います。
◯ 学び続けること・責任と自覚
こうした状況からインターネットや情報機器を使用する世界では、
何か問題が起きたときに有効な解決策があるとは限らないのが現状です。
ですから、大人も子供も関係なくこの新しい道具や技術については
その使用法についてのメリットやデメリットを社会状況の変化に合わせて
しっかりと学んでいかなければなりません。
利用に際して、いまだルールや制限が無かったとしても、自他を傷つけない
ことなどの配慮はもちろん、より良い社会を形成するための相応の責任を
負うことを常に自覚しなければなりません。
これらは、一人ひとりのモラルや自他を思いやる心により支えられます。
当然、大人も子供も区別のない世界ですから子供たちにも
文化の担い手としての自覚と責任が要求されますし、
情報モラルや思いやりの心の育成が期待されます。
上市先生
船橋市立芝山中学校 校長
千葉県教育庁教育振興部指導課 指導主事、
千葉県総合教育センター 研究指導主事、
千葉県教育庁教育振興部指導課 主席指導主事として情報教育に携わる。
今年度より現職。