2016.12.09
学校ICT環境整備【行政の立場】~ 雰囲気の醸成から予算獲得までの道のり ~(前編)
西宮市は、かねてより「電子自治体」として全国に名をはせ、総務大臣表彰も
受けたことがある。しかし、学校現場の情報化は長らく取り残され、
20年は遅れていると実感していた。
学校現場では、一部の熱心な教師の間で、“自力による情報教育”が行われていた。
私自身も技術科教師として、当時学習指導要領に「情報基礎」が導入された折に
パソコン教室が整備され、その環境を活用した授業作りに没頭したものである。
■ 学校ICT整備の原動力
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学校ICT環境整備に注力することとなった原動力。それは1校目の中学校での
経験からである。技術科で必要となる備品や消耗品を要求しても、
ベテラン教師の一言で却下され、実現されなかったことがある。
目前の生徒にとって必要だったし、また新たな教育内容であったパソコンなどを
活用した情報教育も行う必要があったにも関わらず、それを理解する教師や
管理職も少なく、悔しい思いをしたものである。
その当時の思い、
「必要なものは、どの学校も備わっているべき」であり、
「この学校にはあるけれど、あそこにはない…」という状況は、
絶対に良くないと感じたものである。
それが、自分自身の整備理念の基礎となり、「偏りのない、一斉整備」
という、こだわりにつながったと感じている。
■ ネットワークインフラ整備のこだわり
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さて、平成15年度の市教委への入庁後、いきなり総務省補助事業の
地域イントラ基盤整備事業で、各学校の入り口まで光回線を整備する事業に
携わることになった。4月から3カ月かけて市内63校すべてを周り、回線引き込み
箇所からラック設置位置の決定まで、当時の業者とともに巡ったものである。
小学校は学校図書館に、中学・高校はパソコン教室準備室に光回線の先端を
引き込めたが、各教室へのネットワーク整備には程遠いものであった。
平成20年度に、市内63校のうちの約半数、30校の普通教室まで
校内LAN整備の予算(6千万円強)が獲得できた。
その予算獲得のために平成18年度頃から、市長部局情報政策部長の理解を
得るため、提案資料を手に部長席に再三、顔を出したものである。
当時の部長は元々「オール西宮」という理念をお持ちで、行政も学校も
ネットワークインフラが必要である、というお考えを持っておられた。
その後の次年度予算市長査定においても、部長の支援もいただきながら、
「校内LANは学校教育においても絶対必要なものである」という話を
市の幹部にも訴え、理解を得て校内LAN整備予算を獲得することができた。
次年度インフラ設計が始まると、当時の学校施設整備関係部局の担当者は、
予算削減のため100MBでの整備を求めてきた。
しかし、私は頑として譲らなかった。「インフラは絶対に妥協しない」
という強い意志があったからだ。
これは、「一度低スペックで整備してしまうと、その後高スペックの環境に
再整備することは、ほぼ不可能」と、行政独特の空気を肌で感じていた
からである。その徹底抗戦のおかげで、市内63校すべての校内ネットワークは、
1GBベースで整備できることとなった。この流れで、次年度(平成21年度)は、
スクールニューディール政策の補助事業も受けて、全公立学校の教室までの
LAN整備を完了することとなった。
平成23年度に、学校教育課課長補佐から学校情報システム課課長補佐に
異動となった。「学校情報システム課」という、ICT環境整備を主として担う
部署を設置している自治体は、ほとんど聞いたことがない。
これについても、平成20年度当初より、当時の教育次長にその必要性を
訴え続けたものである。その当時の教育次長のご尽力もあり、
平成21年度から新設されることとなった。
このように組織として業務ができる制度づくりも、大変重要である。
星川先生
兵庫県西宮市立深津中学校 校長