2019.03.08
マーフィーの法則 (4)
ユーモアという点で、マーフィーの法則と似たようなことであるが、
物理学の世界では「パウリ効果」というジョークがある。
ノーベル賞を受賞した理論物理学者のパウリは、
実験が下手で、よく実験装置を壊していた。
そのうち、たまたま実験機材が壊れたようなときでも、
パウリが触れたり、近づいたせいだと言われるようになった。
これにちなんで、誰かが触れたり近づいただけで
装置が誤動作したり、故障したりした場合に、
その人物が「パウリ効果」を及ぼしたと言われるようになった。
ニールス・ボーアは、研究所で実験が失敗したときは、
いつもパウリが原因だと言ったそうだし、
パウリ自身も「パウリ効果」を認めていたようである。
いくつかエピソードがある。
◇ゲッティンゲンの研究所で、実験中に原因不明の爆発事故が起こった。
研究員は早速パウリを疑ったが、出張で不在だった。
パウリは列車に乗って別の場所へ移動中だったという。
後に明らかになったことだが、ちょうど爆発が起きた時間、
ゲッティンゲンの駅にパウリが乗っていた列車が停車していた。
◇ある日、パウリはハンブルクの天文台の見学に誘われた。
はじめは「望遠鏡は高価だから」と断ったが、
周囲の説得により同行することにした。
案の定、パウリがドーム内に入ると、大きな音がして
望遠鏡のふたが落ちて粉々になった。
◇ある歓迎会で、主催者がパウリ効果を実演させようと、
パウリが部屋に入った時にシャンデリアが落ちるという仕掛けを
あらかじめ仕込んでおいた。
しかし、パウリが来たときにシャンデリアが落ちることはなかった。
その仕掛け自体が壊れて作動しなくなったからである。
パウリ効果の場合は、ユーモアと言っても、仲間内の冗談話がその正体で、
互いに冗談だとわかっているからこそ楽しめるものである。
ところが、この冗談を真に受ける人が現れると、事態は困難になる。
偶然の現象に過ぎないことを、悪意に満ちて誰かのせいにしてしまう、
根拠もないのに誰かが原因だと決めつけてしまうというようなことである。
それは意地悪ともいえるし、いじめともいえる。
冗談と悪意との境界線はあいまいであるようにも見えるが、
互いに背景の状況を把握しているかどうか、お互いの文化を
どの程度共有しているかによって、ジョークを冗談として受け取り笑い飛ばすか、
冗談を真に受けて怒り出すかという結果の違いを生むことになる。
もともと悪意を持って人を攻撃するのでは言語道断だが、
悪意のないところに悪意があるかのように受け取るのは誤解であり、
誤解はいさかいを生み、不幸をもたらすもととなるので注意が必要である。
そのような不幸な誤解を生まないためにも、マーフィーの法則を適用しよう。
◇冗談は、必ず誤解される。
◇冗談が誤解して受け取られる確率は、相手との親密度に反比例する。
◇冗談が誤解して受け取られる確率は、万一喧嘩をした場合の深刻度に比例する。
マーフィーの法則をうまく応用して、
人生のリスクマネジメントをしていきたいものである。
高橋先生
千葉学芸高等学校理事長・校長・理学博士。
日本教育工学協会評議員、全国高等学校長協会理事。
1995年100校プロジェクト参加を契機に、
ネチケットをはじめとする情報モラル教育の研究に取り組む。
日本教育情報化振興会「ネット社会の歩き方」検討委員、
文部科学省 情報モラル教育検討委員、文化庁 著作権教育検討委員、
総務省 情報リテラシー指標検討委員、JST社会技術研究開発センター
「犯罪からの子どもの安全」領域アドバイザーなどを歴任。
著書:教師と学校のインターネット(オデッセウス出版)、
先生のための実践インターネット講座(NHK出版)他