2019.08.23
未来の創り手のエンパワーメント
●ICT環境の整備施策
新学習指導要領は、予測困難な社会の変化に主体的に関わり、
自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を
子どもたちに育む学校教育の実現を目指している。
そこで、切り拓く社会はSociety 5.0(超スマート社会)として
具現化されはじめ、情報テクノロジーの能力が最大限に発揮され、
隅々にまで浸透した社会とされる。
文部科学省は、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」を
6月25日に公表し、世界最先端のICT環境に向かう必要があるとし、
クラウド活用の積極的推進、一人1台の文房具的利用等を実現する
情報テクノロジー環境整備の加速化に取り組むとしている。
さらに、6月21日には「学校教育の情報化の推進に関する法律」が成立し、
国と地方公共団体等に学校教育情報化推進計画の策定が求められ、
地方公共団体等の教育の情報化に関する責務が明記された。
第3期の教育振興基本計画(2018〜2022年度)では、
情報テクノロジー利活用のための基盤の整備が教育政策の目標に
示されており、実現に向けた施策が着実に展開されている。
このように、よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を育成するためには、
情報テクノロジーは必須のツールとなり、
学習者の判断で活用できるようにすることが重要になってきている。
情報テクノロジーは娯楽のツールという認識ではなく、
困難さを軽減する便利なツール、さらには夢や目的に向かって
エンパワーメントしてくれる変革のツールとして
意識化できるようになっていることが期待されるのである。
●よりよい社会と幸福な人生の創り手のエンパワーメント
目標が細分化されると意義や意味が見えにくくなる。
そのようなとき、表層的な「何をするか」というような形式の議論ではなく、
「どうして」「何のために」という本質の議論が必要となる。
そのために、「よりよい社会と幸福な人生の創り手」となる力を
育むという目的に立ち返ることは有効であろう。
高度成長期の工業社会はすでに過去のものとなり、
成熟期の情報社会へとパラダイムシフトしている。
超スマート社会では、情報テクノロジーの能力が最大限に活用され、
個人の仕事や生活が充実し、多様な社会的課題を解決しながら
持続的に発展する社会が描かれる。
そのために、未来志向の対話が必要とされ、
情報テクノロジーは人間中心の知識創造を支援するとされている。
エンパワーメントの教育で知られるパウロ・フレイレが、
言葉の読み書きを自分たちの境遇を理解し、自分の暮らしや生活を
変えていく能力として「意識化」させたのであれば、
情報テクノロジーは知識創造の過程を豊かにし、
よりよい社会や幸福な人生の創り手となるための
鍵となるツールとして子どもたちが意識化することが重要となる。
情報テクノロジーの整備が次のステージに向けて踏み出しているのであれば、
学校教育情報化推進計画はどういう未来を夢みるのか、
その姿をしっかりとビジョンとして描くことが大切である。
加藤直樹先生
日本教育情報学会理事。
岐阜大学教育学部附属学習協創開発研究センター教授。
教育工学、情報教育を専門とし、
テクノロジーを活用した教育方法やカリキュラム、
学習環境の開発に関する研究を進めている。
近年はタブレットPCの教育利用に関心をもち、
知識創発型の学びを研究テーマとしている。