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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2019.11.08

メディアリテラシーと人権(1) リテラシー向上なき内閣府のインターネット環境整備策

2013年頃からスマートフォン時代になり、
子どものネット利用時間は長くなり、
SNS等に起因する児童買春・児童ポルノ等の犯罪被害は増え、
ネットいじめの問題も深刻化している。

日本では、2009年に施行された
青少年インターネット環境整備法が、
18歳未満の青少年が利用する携帯電話サービスに
フィルタリングサービスをつけることを原則義務化し、
一時的に犯罪被害等の問題には改善が見られた。
だが、スマートフォン時代になって、
こうしたやり方には限界が来ている。
18歳未満のフィルタリング利用率は、
かつての6割台から現在は3割台にまで落ち込んでいる。

こうした話題を検討する内閣府
「⻘少年インターネット環境の整備等に関する検討会」では、
こうした変化が起こっても、相変わらず
フィルタリングの利用率を高めるために
どのようなPRをすれば良いかといった議論が行われている。
だが、こうしたやり方には、百害あって一利なしだ。

なぜか。SNS等に起因する犯罪被害について言えば、
被害者数はスマートフォンが普及する以前より、かなり多くなっており、
その半数近くはTwitterに起因する被害である。
フィルタリングで子どもを被害から守ろうとすれば、
Twitterをフィルタリングでブロックするのが手っ取り早い。
内閣府の検討会においても、犯罪につながるTwitterを
フィルタリングでブロックすれば良いという話が出る。

だが、待ってほしい。Twitterは今の日本において、
基幹となるインフラの一つである。
Twitterでは、公私を問わずさまざまな人が
さまざまな内容を発信している。
Twitterでしか流れない情報も多い。
Twitterを使うか否かは個人が自分で選択すれば良いが、
多様な情報に接し、多様な人と情報交換ができる手段としての
Twitterの利用を子どもに禁止するのは、
子どもの知る権利や意見表明権を不当に侵害することになるはずだ。

民主主義社会において、知る権利や意見表明権は重要な権利である。
犯罪被害防止のために子どもたちのこうした重要な権利を制限することは、
非常に危険だ。理想的には、Twitterというサービス全体に
アクセスをさせない現行のフィルタリングではなく、
有害な内容を発信しているアカウントを判別してブロックする、
新たな仕組みを開発するくらいのことが検討されて良いだろう。
そうしたことができなければ、子どもたちの利用能力
すなわちリテラシーを向上させるしかない。
リテラシー向上と向き合わず、Twitterを
一律ブロックするようなフィルタリングの普及ばかり
強調する内閣府の在り方が、私は受け入れられない。

藤川先生

千葉大学教育学部教授(教育方法学・授業実践開発)。
メディアリテラシー、キャリア教育、算数・数学などの
授業プログラムや教材の開発、いじめ問題等を研究。

著書
・『道徳教育は「いじめ」をなくせるのか』(NHK出版)
・『授業づくりエンタテインメント!』(学事出版)など

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