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2019.11.22

メディアリテラシーと人権(2)人権を守るためにメディアを使う

今年10月21日、私は文部科学省記者クラブ(正式には「記者会」)にて、
千葉県の流山市教育委員会のいじめ対応が法令違反であり、
不適切であるということを公表する記者会見を行った。
この会見には主要な新聞社、通信社、テレビ局が参加し、
さまざまな形で報道してくれた。

いじめの問題が繰り返し報じられる。よく見ると、
2013年にいじめ防止対策推進法が施行されてからの報道は、
それ以前と違ってきているはずだ。
2013年までは、いじめの被害のひどさが中心に、
2013年以降は学校や教育委員会の対応の悪さが中心に、
報じられるようになっていると言える。
なぜなら、いじめ防止対策推進法が学校や教育委員会に
いじめ事案への対応を義務付けており、
ひどいいじめ事案では学校や教育委員会の対応に
問題があることが多いからだ。

私が記者会見で話した事案でも、
市教育委員会の対応がひどいものであった。
重大事態の要件を満たしている案件を重大事態と認めず、
重大事態と認めた案件も4カ月以上にわたって調査を委託せず、
自分たちで法令違反の調査を行っていた。
こうした市教育委員会の対応が、被害者を苦しめた。
被害を受けた中学生(当時)に最もつらかったことは何かと尋ねたら、
調査がなされているはずなのになされていなかったことだ、とのことだった。

いじめは人権侵害であり、被害を申し立てた被害者が、
学校や教育委員会によってさらなる人権侵害に遭う。
これは流山だけの問題ではなく、取手市、川口市、
吹田市、神戸市、仙台市等で市教育委員会等による
法令違反の対応に被害者が苦しめられている。
権力は容易に人権を侵害する。
日本国憲法第12条が言うように、人々の権利は、
国民の不断の努力によって、保持されなければならない。

社会科の教科書的に言えば、こういう場合、
裁判に訴えて、市教育委員会の措置を変えさせるとか、
損害賠償請求するといったことをするしかないのだろう。
だが、裁判となれば市教育委員会側も
自分たちに有利になるように、さまざまな手を使うはずだ。
被害者側にとって、裁判で戦うことは容易ではない。

このように、権力によって人権が踏みにじられている状況で
私たちが活用すべきなのが、メディアリテラシーである。
メディアを適切に活用し、多くの人の理解と共感を得ながら、
人権が守られるように働きかけることが必要である。

私なりにメディアリテラシーを活用した手段が、
今回の記者会見であった。多くの報道機関が報じてくれなければ、
流山市教育委員会の法令違反や不適切な対応を
広く知らせることは難しい。
多くの報道機関に報じてもらうのは、
記者クラブに協力してもらって記者会見するのがベストだ。

社会科の授業では、記者会見の方法を学ぶ機会はないかもしれない。
会見に値する内容さえあれば、記者会見を行うことは難しくない。
文部科学省記者クラブで会見をするのであれば、
文部科学省に電話をし、記者クラブにつないでもらい、
幹事社に事情を話して会見の時間をセットしてもらうだけである。
時間が決まったら幹事社に案内文書を送れば、
記者クラブにいる各社の記者等に伝わり、会見に集まってくれる。

現代では、権力による人権侵害と戦うために、
メディアリテラシーは不可欠だ。戦い方を教えない教育では、
憲法が定める「不断の努力」をしていることにはならない。

藤川先生

千葉大学教育学部教授(教育方法学・授業実践開発)。
メディアリテラシー、キャリア教育、算数・数学などの
授業プログラムや教材の開発、いじめ問題等を研究。

著書
・『道徳教育は「いじめ」をなくせるのか』(NHK出版)
・『授業づくりエンタテインメント!』(学事出版)など

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