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研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

ISEN委員長 山西先生のコラム

2020.01.10

Society5.0時代を担う子供たちの一人1台PC

皆さん、新年おめでとうございます。
初春の令月にして、気淑く風和ぎ、
梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫す。
平成から令和の時代、いよいよ新しい時代が始まった。
令和の出典とされる万葉集にあるごとく、
風和らぎ香を薫す安寧の時代を願うが、
情報化の進展と教育改革の激しさにのんびりもしていられない。
いよいよ新しい時代に対応した学習指導要領も本格的に実施される。
そんな中、ICT学習環境の充実に向けた
一人1台PCの整備と超高速のネット回線整備のための
GIGAスクール構想が文部科学省から示された。
やっとICTの日常的活用に向けた学習環境整備が
進められると喜んだものだ。
教育の情報化では世界の先進国の中でも、
その整備率の悪さではトップクラスだからだ。
でも、これまで整備が図られてこなかったかと言うとそうではない。
2000年初頭から、学校のICT環境整備に向け、
毎年1,800億円近い予算が措置されてはきたが、
ご存知の地方財政措置。必ずしもICT環境整備とは限らず、
その使い道は地方自治体に委ねられた。その結果、
学校のICT学習環境に大きな地域格差が生じる結果となった。
新学習指導要領では、情報活用能力が言語能力と並んで
「全ての学習の基盤となる資質・能力」とされ、
着実な能力育成が求められているのに、
環境のないところでは能力育成もままならない。

教育の情報化先進国の英国では、ブレア政権時代、
児童・生徒のICT活用能力は、ICT環境と
教師のICT指導力に依存するという研究結果をもとに、
ICT環境整備のための予算で全国隅々まで
学校のICT環境整備を行ったのだ。
当時、ICT活用の教育効果を調査に、何度も英国を訪れ、
行く先々の学校でICT活用の効果を質問したが、
なんでICT活用の効果を質問するのかと度々言われたことを思い出す。
ICT環境は教室に黒板があるのと同じ。
誰も黒板の活用効果など質問しない、あるのが当然だからだ。
ただ、板書の上手な教師にかかれば、
学習の流れやポイント、学習の深化を促す
発問と応答などが児童にわかりやすくまとめられ、
学習効果が期待される。ICTとて全く同じだ。
日常的に活用できるICT環境があれば、
それを指導に生かすべく教師は努力する。
中途半端な整備で終わった電子黒板のように、
学校で何台かあっても意味がない。教師にとって教室が現場だ。
平成30年からの「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」で
各教室に大型提示装置や実物投影機を100%整備するという。
目標倒れではなく、是非とも実現したいものだ。
 
と同時に、一人1台PC問題だ。個人的には大賛成だが、
「ICT活用も十分でないのに、一人1台配布してどう活用するのか、
そんなにも多くのPCを誰が管理するのか、
ただでさえ多忙な教師の負担が増える、
もっと教育効果を検証してから・・・」等など批判的意見も出てきている。
こんな意見を耳にするたびに、上述したように、
ICTはまだまだ特別な道具だという意識が
持たれているのだと感じざるを得ない。
今や誰もがスマホを持ち、
小学生でも4割近く、中学生以上はほとんど100%、
職場ではPCやタブレットを持って仕事をしている時代。
我々アナログ世代にとって、デジタルは後から出てきた世界だけれど、
今の子供たちにとって見れば、デジタルが当たり前、
デジタルネイティブの世代なのだ。
スマホにしろタブレットにしろ、あっという間に使いこなす。
一人1台PCは彼らにとっては、何も特別な道具ではない。
鉛筆とノートなのだ。
特別な道具だから教育効果を出すよう活用しなければ・・・
などと考える必要はない。
教育の情報化先進国では、既に一人1台PCは当たり前。
公的に整備される国もあれば、BYOD(Bring Your Own Device)のように
各自が自分のコンピューターを学習の道具として鞄に入れて持ち歩く国もある。
教科書になりノートになり、カメラになり検索ツールにもなる。
いつでもどこでも使う学習の必需品なのだ。
一例として一人1台PCはノートだと考えてみよう。
書くという行為はアナログなノートと何も変わらない。
ただデジタルやネットの機能を活用することで、
情報の共有や伝達、協働作業が可能となる。
児童・生徒はこのようなデジタルノートの機能を
日常的に活用していく中で、情報化時代の情報活用能力を身に付けるのだ。
教師も是非このような意識で授業を考えてもらいたい。

さて、ここで、一人1台PCに関わるさらなる課題だ。
学校のWi-Fi環境整備がいまだ30%台で未整備の学校が多い。
一人1台と合わせて、それをいつでもどこでも使える
ユビキタスなWi-Fi環境整備が必要不可欠。
Wi-Fi環境のないところでは、
タブレットはただの箱になりかねない。
また、その管理についても問題だ。
確かに今までとは比較にならない数の
タブレットPCが学校に配備される。
この管理はとても教師の仕事では無理である。
上述の5か年計画で、ICT支援員の必要性が議論され、
4校に一人の配置が提言された。
文部科学省のICT支援員の育成・確保のための調査研究報告で、
このICT支援員に必要な能力やその能力育成のためのカリキュラムも開発された。
今後8,000人近いICT支援員を育成し、学校支援人材として
学校を支えるチーム学校人材としての活躍が期待される。
実は ICT支援員に関しては、先進諸外国を参考に2006年にも
ICT支援員の必要性がうたわれたが、掛け声だけで実現しなかった。
一人1台PC環境の実現で、その管理はもとより、
私たちISENが最も力を入れているセキュリティに関しても、
ICT支援員が中心となり、学校のセキュリティポリシーのもと、
児童・生徒や教員自身のセキュリティ意識の啓発を担うべきだ。
環境整備とともにICT支援員の協力があってこそ、
教員は児童・生徒の教科指導に専念できる。
教員の働き方改革にもつながる。
チーム学校の必要性は、平成27年12月の
「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」
という答申の中で見て取れる。
この中で、「教員が行うことが期待されている本来的な業務」と並べて、
スクールカウンセラー、ALT、学校司書などと並べて
ICT支援員にも専門能力スタッフとしての活躍が期待された。
今こそチーム学校を現実のものとするべき時だ。

一人1台PCの整備をもとに、さまざまな教育課題が関連して見えてくる。
ISENでは、次代を担う子供たちの教育の未来を志向しながら、
これらの課題をいかに解決していくか、今年も、先生方とともに、
実践的研究の中から望ましい現実的解を探っていきたい。
新時代の教育を担う先生方に、一人でも多くこの輪へ加わっていただいて、
子供たちの明るい未来を共に築いていきたい。
皆さんで頑張りましょう。よろしくお願いいたします。

山西先生

富山大学 名誉教授、上越教育大学監事
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長
日本教育工学協会(JAET)評議員
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長
インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた
教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。
専門は、教育工学、情報教育。

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