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2020.02.28

右斜め上から眺める協調学習(3)創造性と他者

みなさんこんにちは。茨城大学の鈴木と申します。

最終回は、プログラミング的思考と創造性の問題を取り上げたいと思います。
今年、大学2年生50人にmicro:bitを購入させて、授業で使ってみました。
プログラミング経験の全くない文系男女のクラスですが、
予想以上に取っ付きがよく、簡単なプログラムを
視覚言語で作成し、実行するまではすんなりいきました。

少し難度を上げて、変数、条件分岐、繰り返し、
通信と進んでも、特に困ったという声は上がりません。
自分のiPhoneにmicro:bitをペアリングさせるくらいなら、
教えなくても自力でやってしまいます。
最近の学生はリテラシーが高いのか?
楽観的な気持ちでいられたのはそこまでです。

習ったことを応用して自分なりに作品を作ってみよう、
という一番大事な段階が次にきます。
作りたいもののイメージがあれば、学生は、
それを追う中で必然的に足りない知識や技術に気付き、
それらを主体的に他者と協力しながら学んでいくのではないか。
私はそう期待していましたが、
この段階で多くの学生がつまずいてしまったのです。

つまずきの理由は、「作りたいものがない」
「作りたいものを思い付けない」ということなのです。
小中学生が作った才気あふれる作品例を見せてもダメでした。
コマンドや制御構造を頭では理解しているはずなのですが、
それを「こういうものを作りたい」という熱望につなげることができないのです。

これは最悪の状況です。
プログラミング的思考の学習が本当に動きだすのは、
学習者の創造性とプログラミングが
相互に刺激し合った時だと私は考えているからです。

当初、私は、「彼らには創造性がない」
「遊び心に欠けている」と学生を責めました。
が、頭を冷やして、次の授業で少し指示を変えてみました。
新旧の指示を以下に並べます。

旧:「micro:bitを使って役立つもの、面白いものを作ろう」
新:「micro:bitを使って、あなたの友人を喜ばせよう/笑わせよう」

この新しい指示が教室の中を活気づかせたように思います。
停滞していたある班は、「アパート住まいの友達のために、
洗濯物が乾いたらそれを知らせる道具を作りたい」と宣言して、
活動を再開しました。
一人の班員は今までおざなりに眺めていた
プログラム例から「雨滴感知帽子」を見つけ、
「この逆をやればいいじゃないか」と言いながら、
プログラムの解析と改造を始めました。
別の班員はティッシュを濡らしてきて、
自作の実験プログラムを使って湿り気の度合いと
センサーが返す値の関係を調べ始めました。
「Bluetooth通信だとアパートから大学に届かない、
どうしたらいいと思いますか?」という質問に、
私は「わからないけど、一緒に考えよう」と答えました。
こういうのを待ってたんだよな、と嬉しくなりました。

新旧の指示は似ているようで、大きな違いがあります。
新しい指示には、「誰かのためにプログラミングする」という
要素が入っているのです。具体的な他者が喜んだり、
笑ったりするところを思い描きながら考えることで、
「作りたい」ものが形を現したのです。
そして、具体的な利用場面が想定できることで
乗り越えるべき問題も明らかになったのです。
考えてみればそうです。「料理、何作ろうか」と考えるより、
「彼氏や彼女のために何を作ってあげようか?」と考えた時の方が、
発想が広がるし、より具体的なことにまで考えが及ぶでしょう。

創造性は人の内部から湧き出るミステリアスなものだと
思われがちですが、そうではないと思います。
それは、私たちが誰かのために何かをしてあげたいと思って
手や頭を動かした時に、私たちと他者の間に
出現するものなのではないでしょうか。

先に述べたように、プログラミング的思考の学習と
学習者の創造性は切り離せません。とすれば、
学習者が創造性を発揮するように導かなくてはなりません。
大変困難なことですが、一つの考え方として、
上記の「誰かのためにプログラミングする」という
アイデアが使えるのではないでしょうか。
プログラミング学習には、教え合ったり、助け合ったりという
協調学習が取り入れられることが多いと思いますが、
互いを喜ばせるものを作る、という新しい形の協調学習もありでしょう。

鈴木先生

茨城大学人文社会科学部教授。
教育⼯学、認知科学を専⾨とし、
コンピューターを活用した協調学習の研究を進めている。
電子情報通信学会教育工学研究専門委員会委員長。

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