2020.11.20
学習に関係ないもの、持ち込み禁止!
本稿タイトルに掲げたルールを、
きまりとして定めている小中学校は、
全国にどれだけあるだろうか。
まったくの憶測だが、おそらくはほとんどの学校で、
これに類するルールを設けているのではないかと思う。
私が民間から公立小学校の現場に入り、
およそ5年が経ったが、正直に告白すると、
現場に足を踏み入れたとき最初に感じたのは、
いわゆる「学校スタンダード」への違和感だった。
自分の幼少期に照らしても、
果たしてこれほどの「ルールの体系」があっただろうか、
と自問せざるを得なかったのだ。
しかしそれから5年を経て、
公立学校の現状と日々向き合い、
先生たちの頑張り、保護者の困り感、
そして子どもたちの表情をつぶさに見つめる中で、
こうした「学校スタンダード」が生み出されてきた背景について、
おぼろげながら理解ができるようになってきた。
今日の公立学校は、長きにわたって構築されてきた「公教育の枠組み」と、
近年の急速な社会変動や、それに伴う家庭、
子どもの実態の変化の狭間にあって呻吟しているのだ。
その矛盾を埋め合わせるために生み出されたのが
「学校スタンダード」だったのではないか、と。
間違いなく、これから学校は変わっていかなくてはならない。
それもかなりのスピードで。
しかし、今すぐに「学校スタンダード」のありようを
大転換できるほどのスピードが容易に得られるものでないのも確かだろう。
ただ、それは時が来れば自然に変わっていくというようなものではなく、
意思と戦略とをもって「変えていく」ことが必要だと思う。
そこで一つ、私が提案したいのは
「“学習に関係ないもの”を減らしていく」という意識と取り組みだ。
元来子どもたちは、どんなもの、
どんなことからでも学ぶことのできる、学びの天才だ。
彼らの周囲にあるものすべては、
学びの種になりうるはずなのだ。
それを「学習に関係がある/ない」と、
大人目線で仕分けをすることに、どれほどの意味があるだろうか。
最初から「何でもあり」にすべきだと言っているのではない。
しかし、子どもたちがあるものに問いを抱き、
学びを得る視点を持てたなら、
ひとつひとつ「学習に関係がある」ものに加えていってはどうだろう。
身の回りのさまざまなものを「学びの対象」として見つめ直すことを通じて、
子どもたちはおのずと主体的な学習者になっていくし、
一方で「学校スタンダード」にも、
子どもたちが向き合い乗り越えて行くハードルとして、
積極的な意味が生まれてくるだろうと思うのだ。
これは決して万能の妙薬でも何でもない。
しかし、これまで営々と作り上げてきた学校の資産を、
これからの時代へ発展的に移殖し、
生かしていくための「アプローチのひな形」、
またはそのヒントになるのではないか、そう考えている。
最後にもう一つ、謎かけのようだが、
「学習に関係あるもの」を学校から家庭に持ち帰ることの意味についても、
ぜひ考えてみていただきたい。
西尾先生
横浜市立南本宿小学校校長。
児童図書編集者として社会人キャリアをスタートさせるも、
故郷を襲った阪神淡路大震災をきっかけに、
テクノロジーとコミュニケーションの領域へと転じる。
コンピューターソフトメーカー、情報機器メーカーでの勤務、
さらに大手広告代理店でのウェブ関連業務を経て起業。
出版編集からデジタルメディアまでを手掛け、
とりわけ教育分野での取材経験を重ねる傍ら、
鳴門教育大学大学院で修士号を取得。
平成27年、横浜市の民間校長公募により
小学校の現場へ足を踏み入れた。