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研究を重ねた専門家が指南 学校ICT・セキュリティコラム

ISEN委員長 山西先生のコラム

2021.01.15

子どもたちが「知の自転車」を乗りこなす日

新年、明けましておめでとうございます。
昨年は新型コロナの感染拡大で世界中が混乱する1年でした。
まだまだ感染の収束が見えず、withコロナのなかで、
新たな社会や生活の在り方が模索されています。
教育においても、昨年春、学校の長期にわたる休校措置のなか、
多くの教師の努力によって、家庭への映像による授業配信や
双方向型のオンライン授業などが行われました。
ここで、双方向型のオンライン授業が実施された学校は1割程度、
いち早くオンライン授業に切り替えた教育の情報化先進国に比べ、
日本の教育の情報化の遅れが顕著になったのも事実です。
幸か不幸か、これを機に、国のGIGAスクール構想が一気に加速され、
一人1台端末は令和の学びのスタンダードとして、
多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、
子どもたち一人ひとりに公正に個別最適化され、
資質・能力を一層確実に育成できる教育ICT環境の実現が
図られることになったことは嬉しい限りです。

一人1台端末について、不安を持つ教師も多いのですが、
私としては、ようやくコンピューターが真に子どもたちの学習の道具として
活用される時代が来たという思いです。
ご存じの方もおられると思いますが、
アップルの創業者であるステーブ・ジョブスは、
彼が手掛けたコンピューターMacを
「知の自転車:Bicycle for the Mind」と名付けました。
人間は自転車を使うと、自分のエネルギーだけで
どこまででも走ることができます。
自転車は人間にとってその能力を拡張する道具だというのです。
そしてコンピューターはこの自転車のように、
人間の知を拡張する道具であるべきとの強い思いがあったのです。
実は、コンピューターが学校教育へ持ち込まれた当初から、
近い将来、子どもたちがコンピューターをランドセルに入れて
学校へ通う時代が来ると考えられていました。
今ようやくその時代が来たのです。

さて、ICTの教育利用も十分に行われていない中で、
一人1台端末になって、何を教えればいいの
という教員の声を多く聞きます。
こんな時、利用の指針となるフレームワークとして
Ruben N. Puentedura(2013)によって作られた
面白いメタファー:SAMRモデルを紹介しましょう。
SAMRのS(Substitution)は代替えです。
アナログなノートをデジタルなノートに置き換えてみようから始まります。
教室で子どもたちがノートを使う場面は限りなく多いはずです。
意見や考えを文字だけでなく図や式でも書くでしょう。
教師は従来のノートと同じ意識で指導すればいいのです。
子どもたちにとってタブレットはデジタルなノートなのです。
デジタルノートに紙のノートと同じように字なんか書けないと
言われる方もおられますが、使ったことのない方です。
今のデジタル技術はノートと同じようにスムーズに書けます。
次はA(Augmentation)改善です。ここでは、拡大したり、共有したり、
協働編集したりするなど、デジタルの機能を活用するのです。
今までの紙のノートでは難しかったことが実に簡単にできます。
個の考えを共有し、互いに理解を深める協働学習や教師にとっては
個の理解を把握するための教育支援ツールとしての活用です。
これこそデジタル機能があればこそできる活動です。
学習のプロセスでよく使われる、調べてまとめて伝える活動を
情報端末で日常的に繰り返すことで、情報活用能力が育成されるのです。
次はM(Modification)改革やR(Redefinition)創造です。
新しい技術を使った新しい教育方法への改革です。
そもそも、世界の教育が、Society5.0時代を生きる児童・生徒に必要な
資質・能力の育成に向け学習指導内容の改革を行ってきています。
超高速インターネットが世界に普及し、
国際化、情報化の進展と多様性が増した複雑な社会にあって、
新たな価値の創造に向け、自ら課題を見つけ自ら解決していこうとする
主体的な問題解決能力が必須だと言われています。
コンピューティングやデジタルリテラシー等
新しい教科を新設した国もあれば、
日本のように、情報活用能力や問題発見・解決能力を
学習の基盤となる資質・能力として位置づけた国もあります。
4年前にISENで訪問したオーストラリアの学校では、
主体的で対話的で深い学びにつながるアクティブ・ラーニングもすでに実施され、
どの学校でも目にする共通のスローガンは、「I Do, We Do, You Do」でした。
まずは自分でしっかり学習、次に、チームでの課題解決、
最後は、何を学んだかをお互いに発表し確認する。
このそれぞれのフェーズで生徒は
当たり前のようにタブレットPCを活用していました。
STEAM教育にも力を入れ、それぞれの生徒が
社会に必要な問題解決をテーマとした情報システムづくりに
熱心に取り組んでいた姿が大変印象に残りました。
日本でもアクティブ・ラーニングのキーコンセプトのもと、
一人ひとりがICTを活用して、主体的で深い学びを通して、
協働作業能力、主体的で持続的な学習能力、
情報活用の実践力など、デジタル化時代に必要な
キー・コンピテンシーを修得する活動が始まりました。
一人1台、ようやくコンピューターが
子どもたちの学習道具として活かされる時代になったのです。

ネット社会を健全に生きる知識や技術の啓発に努めてきたISENでは、
志ある皆さんとともに、一人1台、教育ICT環境の充実に伴い、
情報セキュリティ教育のみならず、
子どもたちが自由に「知の自転車」を乗りこなす日に向けて、
調査研究、啓発事業の推進に努めていきたいと思います。
本年もよろしくお願いいたします。

山西先生

富山大学 名誉教授。日本教育工学会(JSET)会長。日本教育工学協会(JAET)評議員会議長。教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長。インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた 教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。専門は、教育工学、情報教育。

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