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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2021.12.10

教育DXの先にある学校の存在意義

子どもたちに一人1台の情報端末が整備され
教育DX(デジタル・トランスフォーメーション)が進む中、
一人ひとりの子どもたちの認知の特性や関心に応じた
個別性の高い学びと協働的な学びの両立のために、
教室の風景は大きく変わる。
これまでの一斉授業で重視していたのは、
試験問題が配られたら直ちにその文字情報を理解して、
自分を「空」にして標準人として迅速に反応できる能力で、
それ以外は切り捨ててきたが、DXの時代の今、他者と違ったり、
異なったりすることに意味や価値がある時代になっているからである。

発達障がいの困難さに向き合っている子、
特定の分野に特異な才能を持つギフテッド、
タレンティッドと呼ばれる子、
両親が外国人で日本語指導が必要な子、
どうしても教室に行くことができない子などは、
情報端末のスタディログを生かしながら、
教育支援センターや不登校児童生徒特例校、校内フリースクール、
大学や研究機関などさまざまな場で学びを重ねることができる。
学習指導要領の各教科等の一つ一つの単元にコードが付され、
デジタル教科書やデジタル教材の内容は
このコードに紐づけられることが可能になると、このコードを活かして、
これまでの教育内容の習得が不十分だった子どもはAI教材などを活用して
その確実な習得に向かって自分の学びを調整したり、
特定分野で特異な才能を持つ子どもについては
教育課程の特例を設けて一足早く大学や研究機関で
専門的な学びを行ったりできることとなる。

このように子どもたちの学びは時間的にも空間的にも多様化すると、
学校に子どもたちが集まり、協働して学びを進める意味は
何かと問い直す必要が生じる。
個人の学力を定着させることのみが目的なら、必ずしも学校は必要ないだろう。
特定教科の多肢選択式問題に対応すべく
知識の暗記・再生や暗記した解法パターンの適用のみを
目的とした学習は、AI教材や予備校の一流講師による授業動画に
代替されるとの指摘は現実味を帯びる。
このように、他者と同じことができることが評価される社会の価値観が維持され、
大人が採点しやすい知識再生型のテストを軸とした教育が行われるままで、
情報端末を活用した教育の個別化が進展することは、
子どもたちがアルゴリズムやAIが指示するとおりドリル学習を
徹底するという事態となる。

しかし、教育基本法第5条第2項は、義務教育の目的として
①社会的な自立、②国家・社会の形成者(持続可能な社会の創り手)の
育成を求めている。
この社会的自立と持続可能な社会の創り手の育成という
学校の存在意義に照らして何よりも大事なのは、
子どもたちが自分の認知の特性や関心に応じて学びの目的を自ら見定め、
自分で自分の学びを調整したり、他者と対話し、
協働して「納得解」を形成したりできることであり、
これらはフィルターバブルで動揺する民主政の基盤でもある。
学校の役割は、知識の習得にとどまらず、
子どもたちが、習得した知識や思考を活かしてより善く生きようとか
より良い社会にしようとするための教育実践を重ねること。
だからこそ、子どもの学ぼうとする心に火を灯し、
ICTを活用して単元の内容をより構造的・立体的に理解できるような授業を演出し、
「学び合い」や「教え合い」でクラス全体の知識の理解の質を高めたり、
討論や対話、協働を引き出したりするという教師固有のかけがえのない役割は
学校の存在意義そのものである。
※ このような議論を、文部科学省や経済産業省と連携して
総合科学技術・イノベーション会議で行っています。どうぞご覧ください。
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kyouikujinzai/index.html

合田氏

内閣府(科学技術・イノベーション推進事務局)審議官。
70年生。福岡県教育庁高校教育課長、NSFフェロー、
初中局教育課程課長、財務課長等を経て現職。
上越教育大学非常勤講師。
単著に『学習指導要領の読み方・活かし方』。
共著に『学校の未来はここから始まる』、『メディアリテラシー』。
目黒区立小中学校のPTA会長を6年間経験。

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