2024.01.12
自律的に学べる子供を育てよう
新しい年を迎え、それぞれに気持ちを新たに今年の目標を
考えておられることかと思います。
いつもなら、「新年おめでとうございます」の言葉で始まる新年ですが、
今年は躊躇せざるを得ませんでした。
令和6年1月1日夕刻に、石川県能登半島でマグニチュード7.6という
巨大地震が発生しました。
近県の富山に住む私自身も、今まで経験したことのない大きな揺れで恐怖を覚えました。
幸い、我が家では、庭の灯籠の倒壊と整理の悪い我が書斎の本や書類が
落下散乱した程度の被害で、家族は皆元気、今まで通りの日常生活を送ることができています。
しかしながら、震源に近い能登半島はもとより石川県や富山県などの一部では、
犠牲になられた方や家屋の倒壊など多くの方が被災されました。
被災者の方々に衷心よりお見舞い申し上げるとともに、1日も早い復興をお祈り申し上げます。
さて、ISENでは、ますます重要になってきたネットワーク活用に関わる諸問題を中心に、
先生方のICT利活用を支援する活動を展開してきています。
GIGAスクール構想もNEXTステージに入り、
端末やクラウドの日常活用が進んできていますが、まだまだ課題も少なくありません。
令和5年度の全国学力・学習状況調査結果によれば、
ほぼ毎日ICT機器を活用している学校の割合が小・中学校とも6割を超えたといいます。
Society5.0時代に生きる子供たちにとって、PC端末は鉛筆やノートと並ぶ学習の
マストアイテムと言われた環境と活用がようやく現実となってきました。
2005年に文部科学省「地域・学校の特色等を活かした
ICT環境活用先進事例に関する調査研究」で座長を務めさせていただき、
2007年に報告書を公開しました。
一人1台端末を持っての授業と、今と全く同じICT学習環境を描いたのですが、
こんな毎日ICTを使う教育はおかしいと、
多くの先生から批判をもらったことが懐かしく思い出されます。
教育の内容も方法も時代とともに変化すべきでしょう。
今まさに教育のパラダイムシフトが起こっているのです。
しかし、先の結果でも、週1回から月1回未満しか活用していないとの回答が
まだ1割近くあります。この環境で学ぶ児童・生徒の情報活用能力が心配です。
昨年末、PISA2022の結果が公表されました。
数学的リテラシー、読解力、科学的リテラシーの3分野とも世界トップレベルとの結果です。
その要因の一つに、生徒の情報活用能力の向上で、CBTへの適応力が増したとのこと、
ICT学習環境整備の成果といえます。
しかしながら、次代に求められる「自律的な学び」について課題も見られました。
例えば、「学校が再び休校になった場合に、自律学習を行う自信がありますか」との設問では、
OECDの平均を大きく下回り最下位に近い結果でした。
別の国際比較、国際教育到達度評価学会(IEA)のTIMSS 2019によれば、
算数・数学や理科の勉強が楽しいと答える児童・生徒の割合は、
小学生ではOECDの平均値よりも高いのに、中学生になると平均値をかなり下回る結果です。
また、その勉強が日常生活に役立つという思いや、将来、
それを生かした職業に就きたいという回答が、同じく国際平均よりかなり低い結果です。
点数で測られる教科の知識理解のみならず、
これからは、学ぶ楽しさ、何のために学ぶのかという学びの意味が実感できる教育、
自律的な学びを育てる教育がより一層求められます。
私事ですが、富山で未来キッズカンファレンスを主催しています。
学校や地域のプログラミング教室で学んだ成果を、
「あったらいいなこんなもの」というテーマで製作した作品の発表会です。
どの作品も人々の暮らしや社会をより良くするために
子供たちが考えた素晴らしい作品ばかりです。
指導された先生に聞けば、興味関心を持ち目的意識があれば、
子供たちのプログラミングスキルがどんどん向上するとのこと。
先生から学ぶよりも、YouTube などネット上にある有意なコンテンツを見て
学ぶことが多いそうです。EdTechが進みネット上には役立つコンテンツが溢れています。
自律的に学ぶ術を教えれば子供たちはどんどん学ぶのです。
もちろん、先生が指導すべきことは指導すべきですが、
時に伴奏者として子供と一緒に学ぶことも必要ではないでしょうか。そんな時代です。
アクティブ・ラーニングが進むオーストラリアで、生徒が
自らのアイデアを形にするMaker Spaceを見聞する機会がありました。
プログラミング環境はもとより、工作のためのさまざまな道具、
指導のための技師が配置された中で、生徒は個々人の興味で社会に役立つ作品作りに、
皆熱心に取り組んでいました。もちろん、分からない時には
ネット上のコンテンツを活用するのはいうまでもありません。
一人1台端末になったのだから、コンピューター室は不要との学校や
教育委員会のニュースがありましたが、何をか言わんやです。
自律的な学びを育てるためにも、映像開発や高度なシステム開発を可能とするコンピューター、
ものづくりのための工作機械などが整備された、
クリエイティブな活動スペースを作りたいものです。
「偉大な教師は生徒の心に火をつける」と言われます。
ISENでは先にも述べたように、志ある先生とともに、
次代が求める教育に向け、役立つ情報を収集し発信する活動に
より一層取り組んでいきたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
山西先生
富山大学 名誉教授、上越教育大学監事
日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長
日本教育工学協会(JAET)評議員
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会(ISEN)委員長
インターネットやコンピューターなどの情報通信技術を用いた
教育方法や学習環境の開発に関して、学校教育から生涯学習まで幅広く研究している。
専門は、教育工学、情報教育。