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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2024.07.11

メタバースの学校で見えた教育の可能性

メタバースでは、ユーザーはアバターを使って
現実世界とは異なる姿で他者とコミュニケーションなどを行うことができます。
この特徴は、教育にも大いに役立つ可能性があります。
アバターのメリットは、「見た目の影響を受けないこと」
「普段の自分とは異なるアイデンティティを持つことができること」
などが挙げられます。
実際、バルセロナ大学のアバターを使った人種差別に関する研究では、
アバターが偏見を減らす効果が確認されています。
私が行ってきたメタバース空間の模擬学校「私立VRC学園」や
「VR言語交流イベント」「VR美術館」などでは、
ユーザー同士が年齢や性別などを知らずに交流しています。
メタバースでは、相手の素性を知る必要もなければ、
自分の素性も明かさずに済むため、自由で安心できる「居場所」が実現します。

江戸時代には、武士が身分を隠して徘徊する文化がありました。
俳諧は江戸時代を通じ、人と人を現実の身分の壁を超えて、
ひととき文芸の仮想世界の中で交流させる装置を作り上げました。
これらは、メタバースにおけるアバターの利用に似ていると思います。
人は誰でも自分の中に複数の「アバター」を持っており、
それぞれの場や人との出会いに応じて使い分けることができます。
そんなさまざまな自分を人や場との出会いに応じて大事に育てながら、
しかもそれを時によって切り替えるというメタバースの世界は、
そうした多様性を認めた上の自由な生き方につながっているのです。

不登校の学生は人と話す機会をあまり持てないことが多いですが、
メタバースではアバターを通じて生き生きと活動する様子が見られます。
メタバースでは、相手の素性を知る必要もなければ、
自分の素性を明かす必要もない自由な「居場所」の実現ができるからです。
例えば、私はメタバース空間で2年前に知り合い、
いまだに仲良くしている方と先日リアルでお会いしました。
彼は中学生のときから不登校で、メタバースで遊んでいる際に私のイベントを知り、
参加してくれていたようです。
しかし、彼は非常に博学だったため、私は最近まで彼が高校生だということ
を知らずにメタバースで彼とフラットに接していました。
もし彼と先にリアルで知り合い、最初から彼が学生であることを知っていたら、
私の彼への接し方も先輩ぶった異なるものになっていたかもしれません。

大人が子供に対して、大人のように振る舞うことを期待すると、
子供はその期待に応えようと成長します。
反対に、赤ちゃん扱いされると、その期待に沿う行動を取るようになります。
これを「ピグマリオン効果」と呼びますが、
メタバースでのアバターを介したコミュニケーションは、
この効果を生みやすいと感じます。

メタバース空間は、現実世界では得られない自由で多様な交流と
自己表現の機会を提供し、教育や個人の成長にも寄与します。
偏見を減らし、自分の中の異なるアイデンティティを育てることで、
現実で居場所のない人々も活躍でき、相手を先入観なし
に評価することが可能になるのです。

齊藤先生

齊藤 大将
株式会社シュタインズ代表取締役。
情報経営イノベーション専門職大学客員教授。
エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。
テクノロジー×教育の事業や研究開発を進める一方、仮想空間に学校や美術館を個人創作。
CNETにてエストニアやVRに関する連載を持つ。

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