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学校ICT 専門家・研究者のコラム

2024.09.12

生成AIの授業活用から見えた成果と課題

本校では、文部科学省が昨年7月に発表した生成AIに関するガイドラインに基づき、
生成AIパイロット校として、授業や校務で具体的な取り組みを進めてきた。
「とにかく使ってみる」というアプローチから見えてきた成果と課題について考察する。

昨年12月からChatGPTの活用が進み、日常使いする段階において、
生徒や教師それぞれに使い方の差が見えてきた。
今年5月に行った3年生のアンケート結果によると、
約4割の生徒が「回答をインターネットや教科書などの他の情報と比較した」
「回答から必要な内容だけを自分の考えに取り込んだ」
「自分が納得するまで違う視点で繰り返しChatGPTに質問した」
「回答をアレンジして新しい自分の考えを生み出した」のいずれかを回答し、
ほぼ毎日ChatGPTを活用していた。これらの生徒の学習カードや振り返りシートから、
思考の深まりや新たな気付きを観察することができた。

一方で、約2割の生徒は「必要な情報が得られないため使うのを諦めた」
「より良い回答を引き出すプロンプト(入力する文章)を考えられないと感じた」
「回答が難しすぎてよく分からなかった」のいずれかを回答し、
ほとんどChatGPTを活用していなかった。
さらに、「コピーしてレポートなどにそのまま貼り付けた」と回答する生徒もいた。
教師からも「授業の中で効果的な活用方法がイメージできない」
などの声が聞こえてきた。
このことから、生徒には生成AIの効果的な使い方を学ぶための支援、
教師にもそのための指導方法の支援が求められていることがわかった。

そこで、プロンプトのテンプレートを多数作成し、
各教師には「何のために使うのか」を考えて模倣またはアレンジし、
活用してもらうこととした。
例えば、社会科の授業では「自由民権運動と激化事件」を
テーマにしたプロンプトを使用し、生徒が生成AIと対話しながら
内容の理解を深める方法を試みた。
また、理科の授業では、学習カードや振り返りシートの
データ分析を行うプロンプトを用いて、
他者の考察と比較することで多面的な見方や考え方を育成した。
さらに、国語の授業では、ChatGPTを活用して俳句を創作し、
いろいろな言葉の言い換えを考えることで語彙力や表現力の向上を図った。

これらの取り組みは、生成AIを活用する目的が明確であり、
生徒にどのような力を身につけさせたいかを意識しながら実践できた。
今後、生成AIの活用を通じて、各教科の学びとAIを使うスキルの学びを
相互に高め合うことが期待される。
教師はその過程で、活動によって生徒が「何ができるようになったか」を
価値付けることが重要である。
こうしたプロセスを通じて、「もっと学びたい」「いろいろな使い方をしたい」
という学びの好循環が生まれていく。

現代は「解がない時代」と言われており、覚える力よりも考える力が求められている。
生成AIが情報を提供し、問題解決のためのヒントを与える存在となることで、
教師の役割は「情報の提供者」から「学び方のガイド役」へと
変化していくのではないか。
生成AIと共に歩む新しい教育の道を拓くことは、まさに教師のミッションであり、
これからの教育を豊かにするための挑戦と言えるだろう。

梅野先生

梅野 哲
相模原市立中野中学校 保健体育科総括教諭・教務主任
日本教育工学会(JSET)会員

相模原市立中学校教員・神奈川県立高等学校教員
バンコク日本人学校教員を経て令和2年より現職
令和2年に相模原市GIGAスクール構想の推進校として、
学校独自で勉強会を重ね積極的にICTを活用し、
令和3年に Google 事例校に認定される。
令和5年よりリーディングDX・生成AIパイロット校に文部科学省より指定を受ける。
生成AIを活用した授業研究と普及活動に力を入れており、
NEW EDUCATION EXPO 2024で実践発表や日本教育工学会(JSET)2024全国大会で
研究発表を行っている。

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