2024.12.12
特別支援教育×ICT:生徒の「自立」に向けて
ICTが一般教育に広く浸透する中で、
特別支援教育においても大きな役割を果たしています。
支援が必要な生徒こそ、ICTの力を活用することで、
学びや生活での可能性が広がり、より豊かな経験を積むことができます。
ここでは、その効果と具体的な活用方法について、
私が経験してきたことを紹介したいと思います。
まず、ICTを活用するメリットの一つとして、
タブレットPCを使うことによる「多様な入力方法の提供」が挙げられます。
特別支援教育の現場では、生徒それぞれが異なる得意・不得意を持っているため、
どのような手段で自身の考えを表現するかという選択肢が多いことが重要です。
プリントなどにそのまま書ける生徒ももちろんいますが、書字が苦手であったり、
文房具を持つとついつい意識がそちらに向いてしまったりする生徒もいます。
その生徒も、タブレットPCでの入力となれば集中できるようになることが多いです。
また、ローマ字入力ができない生徒も「かな入力」や
「音声入力」といった手段があるおかげで、
よりスムーズに文字にすることが可能となります。
ICTは生活面でも大いに役立ちます。
例えば、自宅の住所を覚えられない生徒がいました。
修学旅行の荷物を自宅に届けるために必要だったのですが、
その生徒は郵便番号も番地も分かりません。
しかし、地図アプリのマップ機能を使い、自宅の場所をタップして
住所を表示させることにより、問題を解決しました。
日常的に使うことによって、ICT利活用と、
生徒の持っている知識が結びついた瞬間でした。
他にも、私のクラスでは毎年修学旅行先と1・2年生の教室を
リモートでつなぐという取り組みをしています。
事前に下級生が考えていた質問に対して、
3年生が現地で学んだこと、実際に観てきたことを伝えます。
下級生はあらかじめ用意していた質問に加えて、
リモート中継で観られる景色にも興味を示します。
3年生は予想外の質問にもアドリブで答えますが、
下級生からは食べ物、お土産、観光している人の数など、質問が止むことはありません。
答えられない質問があると、後日答えられるように
3年生はホテルに戻ると一生懸命に調べ学習をします。
この取り組みは3年生の大きな学びとなり、同時に下級生の修学旅行への
興味・関心を大きく引き上げることにも成功しています。
また、近年注目を集める生成AIも、特別支援教育で大きな支えとなっています。
私は言葉で上手に表現できない生徒がいる中で、彼らが何を考えているのか
「頭の中をのぞいてみたい」というような気持ちをもつことが多くありました。
彼らは課題に対して考えているのですが、その言葉の表出が上手くできなかったり、
時間がかかったりして相手に思うように伝わらず、
中には伝えることを諦めてしまう生徒もいました。
しかし、例えばChatGPTなどのツールを使うことで、
生徒が思っていることを簡単な形にまとめたり、
複雑な説明をわかりやすく変換したりできます。
このようなAIのサポートにより、生徒は「自分の考えが上手く伝わらない」
というもどかしさから解放され、自信を持って意見を発信できるようになるのです。
支援が必要な生徒たちにとって、ICT活用は「自立」への強い味方となります。
特別支援教育の場では「眼鏡をかける」という表現がよく使われます。
眼鏡をかけることが当たり前であるように、
ICTを活用することも特別なことではありません。
これからも生徒一人一人の自立に向け、可能性を広げられるよう、
丁寧に向き合っていきたいと思います。
岡本先生
岡本 一朗
・相模原市立中野中学校(2017〜)
・特別支援学級担任
・相模原市立中学校教育研究会(支援教育の部)副部長
・校内では2020年度から校内研究推進委員長を務める